WCの決勝戦が終わった。
勝ったのは誠凛高校。私たちに勝った高校だ。
観客席で見ていた私は、いろんな感情がせめぎあって、拳をぎゅっと握った。

「…辰也?」

隣に座る辰也の手が震えていることに気付く。
心配になって顔を見上げるたけど、彼の顔を見て安堵する。

「…武者震い?」

辰也の顔を覗き込んで、小さな声で聞いてみる。
辰也の顔は、闘志に満ち溢れている。

「本当だ」
「気付かなかった?」

辰也は自分の右手を見て、初めて震えていることに気付いたようだ。
ぎゅっと握り拳を作った。

「…いいな。オレももっと試合したかった」

辰也はコートの選手たちを見ながら言う。
切なげな、でも力強い顔で。

「…うん」

辰也の言葉に私もうなずく。
私たちも、勝ってあそこにいたかった。

「誠凛が勝ったのは嬉しいけどね」
「ね。私たちに勝ったし、それに大我くんもいるもんね」

やっぱり私たちに勝った誠凛に勝ってほしかったし、それに何より、誠凛には大我くんがいる。
彼らが勝ったことは嬉しい。
だけど、喜ぶ姿を見ると、悔しさもこみ上げてくる。
勝ちたかった。優勝したかった。
笑って大会を終えたかった。

「…悔しいな」

右手の痛みに気付いて、手を開く。
手のひらが、自分でも驚くぐらいに真っ赤になっていた。

、大丈夫?」
「うん…びっくりした」
「無意識?」
「うん」

気付かない間に強く握りすぎていたようだ。
手のひらがジンジンする。

「……」

自分の手のひらを見つめる。
自分で思っているより、私はずっと。

「…悔しい」

コート上の彼らを見ると、思いが溢れてくる。
胸が締め付けられるような悔しさ。
あそこで喜び合うのは、私たちでありたかった。

「…次は」

辰也は私の右手の手のひらを優しく撫でながら、言葉を紡ぐ。

「優勝しよう」

辰也は真っ直ぐ私を見ながら、力強い口調で言った。
私は大きくうなずいた。

「うん!」

次こそは優勝しよう。
最後に笑うのは私たちでいよう。
私たちは決意を新たにした。

「え〜めんどくさい」

辰也の隣で、敦が低い声で呟いた。

「敦だって負けるの嫌でしょ?」
「確かに嫌だけどー」

敦は唇を尖らせる。
こんな言い方をしつつも、敦だってやる気だろう。
試合後の涙がすべてを物語っている。

「素直じゃないアル」
「素直だし」
「頑張ってもらわないと困るアル。ワタシだって負けたくないアル」

劉が諌めるように話す。
その向こうで福井先輩と岡村先輩が優しい目で私たちを見ていた。

「若いなー」
「若いって…」
「うらやましいのう」

一つしか違わないのに、そう言おうと思ってハッと思い至る。
「次」に、もう先輩たちはいないんだ。

「あの!」

両手をぎゅっと握って、前に乗り出す。
先輩たちの顔を見上げる。

「先輩たちの分まで頑張りますから」

試合が終わった後の先輩たちの表情を思い起こす。
頑張ろう。できることを精一杯しよう。

はいいやつだなー」
「え?」
「周りがヒネてっから、が輝いて見えるわ」

福井先輩は目頭を抑えながら言う。
そうしたらみんながすかさず反論した。

「ワタシ別にヒネてないアル。ヒネてるのはこいつアル」
「ちょっと〜指ささないでしょ。オレヒネてねーし。超素直だし」
「そういうとこがヒネてるって言うんじゃ」

敦と劉は揃って唇を尖らせる。
確かに二人とも素直じゃないなあ。
岡村先輩の言葉ももっともだ。

「オレ結構素直だと思うんですけど」
「おめーが一番厄介なんだよ!」

辰也がきょとんとした顔で言うから、福井先輩が大仰につっこんでくる。
ああ、いいな。いつものみんなだ。
もうこんなことは、きっと数えるほどしかできないんだろう。

「ワシらが叶えられなかった夢は、お前らが叶えるんだぞ」

岡村先輩が噛みしめるように言う。
胸の奥が、きゅっと痛んだ。

「ゴリラが何言ってんの〜」
「うおおおっ!?」
「寒っ」
「ワシ今いいこと言ったはずなのに…」

敦の言葉に岡村先輩が大仰に泣いている。
本当に敦は素直じゃないんだから。

「やっぱりひねくれてる」
「何が〜?」

私の二つ隣に座る敦の顔をのぞき込んで言う。
敦は少しだけ頬を赤くして、そっぽを向いてしまった。

「オレが頑張るのはオレのためだし。別にゴリラのためじゃないし」
「はいはい」

敦は珍しく照れている。
みんな、わかってるよ。

「…みんな、頑張ろうね」

辰也に敦、劉のほうを向いて小さな声で言った。

「頑張ろうね」

辰也が私の手を握る。
優しいけれど強い口調、辰也の眼には確かに闘志が燃えている。
それは劉も同じ。
敦もあんな言い方をしているけど、本気でやってくれるはずだ。

先輩たちの思いは、私たちが受け継いでいく。
そしてきっと、私たちの思いは敦たちが。
こうやって、ずっとずっと、つながっていくんだろう。








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14.09.22

最終回の「何度でも」のシーンが1,2年中心だったのを見て書きたくなった話です



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