「ねえ、辰也…」
「ん…」
「あ、あの…」

辰也は何度もキスをして、段々、その、そういう雰囲気に。
で、でも、今日はちょっと待って…!

「た、辰也、お風呂…」

いつもなんかこうやってもつれこんじゃうから、その、せっかく泊まるんだし前にお風呂入りたいです…。

「一緒に?」
「えっ!?」
「一緒に入ろうよ」

辰也は頬を摺り寄せてくる。
お、お風呂、一緒に…!?

「む、無理」
「ええー…」
「だ、だってお風呂って、お風呂でしょ!?」

お風呂って、お風呂って…!

「無理、無理!」
「入ろうよ」
「絶対無理!!」

本当に、本当にそれだけは無理だ…!

「辰也、あの、本当にそれだけは…ごめん」
「どうしても?」
「うん…」
「…わかった」

辰也はものすごーく不機嫌そうな顔で、渋々頷いた。
よ、よかった…。

「じゃあ、その代わり今晩なんでもいうこと聞いてね」
「えっ」
「よし、決まりだ」
「ちょ、ちょっと待って…!」

な、なんでもって。
ものすごく、嫌な予感しかしない。

「待って、辰也待って!」
「じゃあお風呂入ってくれる?」
「わー!」

辰也はひょいと私を抱き上げると、そのままお風呂の方へ向かう。
いや、いやいやいや!?

「わかった!聞く!言うこと聞きます!!」

そう叫ぶと、辰也は嬉しそうな顔で、意地悪そうな顔で、笑った。

「よし、絶対だよ」
「は、はい…」
「じゃあ、お風呂入って来るね」

辰也は私を下すキスをすると、ご機嫌な足取りでお風呂へ向かった。
………。
まずいかもしれない。とんでもなくまずいかもしれない。
しれないけど、一緒にお風呂は本当無理…。

「うう…」

今夜、私大丈夫かな…。





、上がったよ」
「あ、辰也」

お風呂から出た辰也は髪を少し濡らして、色っぽい感じだ。
服は部活に着替えとして持って行ったけど結局着なかったやつだ。

「えっと…部屋で待ってて」
「うん」
「本棚のやつとか読んでいいし、あとテレビもあるし…」

そう言って辰也を自分の部屋に通す。
さて、私がお風呂だ。

「じゃ、じゃあお風呂行ってきます」
「行ってらっしゃい」

辰也を部屋に残してお風呂へ向かう。



服を脱いで、軽くお湯を流して浴槽に入る。
…うちのお風呂に、辰也が入ったのか。
い、いやいや別に変な意味じゃなくて。

「……」

ち、違う!変なこと考えたりしてない!してないってば!

「はあ…」

本当、今日の私、ダメだ…。
なんなんだろ。どうしてこんな、いきなり、泊まってって言ったり。
…いろいろ、考えてしまったり。

浴槽に半分顔を沈める。
頭が沸騰しそう…。





「…よし」

お風呂からあがって、パジャマを着て、化粧水もつけて、髪も乾かした。
歯も磨いて、寝る準備ばっちり。

「……」

辰也のところ、行かなくちゃ。


「辰也?」
「ああ、お帰り」

私の部屋に行くと、辰也は本を読んでいる。
…私の本棚にあった、大学案内だ。

「…、志望校決まったの?」

大学案内には付箋が何枚かついている。

「決まったって言うか…何校かに絞ってるよ」
「そっか」

心臓の鼓動が早くなる。
ずっと、辰也に聞きたかったこと。
聞きたいのに、怖くて聞けなかったこと。

今、聞かないと。

「…辰也は」
「うん」
「大学、どこに…」

俯いたまま、そう聞いた。

「東京のほうって思ってるよ」
「……」
「東京じゃなくても、その辺りかな。神奈川とか」
「そ、そっか…」

辰也の肩に頭を乗せる。

「…よかった」
?」
「…辰也、卒業したら、アメリカ帰っちゃうかと思ってた」

ずっと不安だった。
辰也はアメリカに帰っちゃうんじゃないかって、怖かった。
そっか、東京か…。

「帰るって、一応オレ生まれは日本だよ」
「そ、そうだけど、結構長い間あっちにいたんだし」
「まあ、ロスも好きだけど」
「……」
を置いては行かないよ」

辰也は私の頭を撫でる。
また鼓動が早くなる。でも、嫌な感じじゃない。

「…うん」
も東京なんだろ?」
「うん」

辰也は付箋の貼ってある大学案内を見てそう言う。
前から、大学からは上京しようと思っていた。

「…オレも結構、不安だったんだよ」
「?」
はここに残るかなって」
「…うん」

確かに友達に進路の話をするとだいたい驚かれる。
地元に残りそうなのに、って。

「ここも大好きだけど、やっぱり…」

地元は大好きだ。
何にもないけど、17年間、生まれ育った場所。
離れ難いとも思う。

だけど、それ以上に、もっと勉強してみたいと思うから。
家族も、納得してくれている。

「…じゃあ、卒業しても、一緒だ」
「うん」

胸をなで下ろす。
ずっと不安だったから。
卒業したら、離ればなれになってしまうんじゃないかと。

成績いいし真面目だし、推薦取れるんじゃないか?」
「先生もそう言ってくれたよ。もちろんまだ頑張るけど!」
「うん」
「辰也はスポーツ推薦?」
「どうだろう。狙ってはいるけど、こればっかりは相手次第なところもあるし」
「そっか…」
「取れたら一番だけど、一応勉強もするよ。部活あるし大変だけど」

辰也は苦笑する。
今までの喉のつかえが取れたみたいだ。

?」
「……」

辰也にぎゅっと抱きつく。

「泣きそうな顔してる」
「…怖かったんだよ」
「うん」
「離れ離れなんて、絶対嫌だし、耐えられないって、思って」
「うん」
「だから、安心したら、なんか…」

一晩離れるのも寂しいと思うほどなのに、四年間。
きっと、壊れてしまう。

「大丈夫だよ、
「うん」
「だってオレも耐えられないよ。どこか行くなら、絶対を連れていくよ」
「うん」

辰也は私にキスをする。
ああ、そっか。
だから今日はやたらと、辰也といたかったんだ。
もしかしたら、来年はこうしていられないかもと考えたりして、不安で。
少しでも、離れたくないと。

「……」

いや、違うかな。
だって、不安じゃなくなっても、辰也と一緒にいたいと思う気持ちは変わらない。

「辰也」


もう一度キスをした。
来年も、四年後も、その先も、今日の夜も、ずっと一緒だよ。









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14.03.21