「…ん」

携帯のアラームが鳴る。
…起きなきゃ。

「んー…」

携帯に手を伸ばす。
体がだるい。

「……?」

だるいっていうか、痛い。
なんで…と考えた後、隣を見てハッとする。
隣には、辰也が眠っている。
そうだ、昨日は辰也と二人で夜を過ごしたんだ。

変な感じだ。
私のベッドに、辰也が寝ている。

「辰也、起きて」

辰也の体を揺する。
…起きない…。

「辰也、起きなきゃ」
「…ん」
「辰也!」
「…もうちょっと…」
「だめ!」

今日の練習は少し遅い時間からだけど、辰也は一回家に帰らないといけないし、私も部屋を片付けないといけない。
起きてもらわないと!

「んー…」
「もう!」
「…じゃあ、キスして」
「え?」
「キスしてくれたら、起きるよ」

辰也は寝ぼけた顔で呟く。
…でも、こんなこと言って、しっかり覚醒してるんじゃ…。

「…本当?」
「うん」
「もう」

寝ている辰也にキスをする。
そうしたら、辰也の腕が私の背中に回った

「わっ!」

「起きるって言ったじゃない!」
「嫌だなあ、オレなんだから、こうなることぐらいわかってただろ?」
「……」

ムッした表情で辰也を見つめるけど、辰也は意に介さない。

「ねえ、本当に」
「5分だけでいいよ」
「?」
「この部屋で、こうすることなんて、これからあるかわからない」
「…」
「せっかくなんだから、満喫したいなって」

辰也は優しい顔でそう言う。
私はいつも、その表情に絆される。

「…5分だけね」
「うん」

辰也は私をぎゅっと抱きしめる。
私も辰也を抱きしめた。





「朝ご飯、パンでいい?」
「うん」

パンを焼いて、食卓に並べる。

「いただきます」
「いただきます!」

朝のニュースを見ながら、朝食だ。
…!

「わ、電話!」

家の電話が鳴る。
きっと、お母さんだ。

「はい、です」
?よかった、起きてた』
「起きてるよ」
『メールしたけど返事なかったから。あんたあんまり寝坊しないけど、一応ね』
「あ、携帯部屋に置きっぱなし」
『そう。ならいいのよ。ちゃんと朝ご飯食べてる?』
「もう、大丈夫だってば。もう高校生だよ?」
『あら、心配くらいさせなさいよ。いくつになってもあんたは私の子供なんだから』

お母さんの優しい声に、胸が締め付けられる。

「…うん」
『じゃあ、行ってらっしゃい』
「うん。バイバイ」

電話を受話器に置いた。
…お母さん。

?」
「……辰也」

お母さん、私には、大切な人がいるよ。

「今度はさ、みんないるときに家来てね」
「…オレ、お父さんに殴られない?」
「ふふ、殴られるようなこと、いっぱいしてるもんね」

そう言って辰也と笑い合う。
大切な人。家族も、辰也も。





「忘れ物、ない?」
「大丈夫。あったらのお父さんに殴られる」
「もう、またそれ」

もう行く時間だ。
辰也は冗談を言って笑ってる。

「…じゃあ、また学校で」
「あ…」

辰也がドアノブに手をかける。
辰也の服の袖を引っ張った。

「辰也、あの…」
「?」
「…変なこと、言っていい?」
「もちろん」

これからのことを考えて顔が赤くなる。
…辰也。

「あの、ね。出るとき…行ってきますって、言って欲しい」

昨日の、お帰りなさいの、続きのような。
あの感じを、もう一度。
バカみたいだと言うことは、自覚しているけど、どうしても。

「じゃあ、オレからも」
「?」
「行ってきますって言ったら、行ってらっしゃいのキスをして」

辰也は私の頬を撫でる。

「…うん」
「じゃあ」

少し間が開く。
辰也。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

辰也は少し屈んで、私は背伸びをして、キスをした。
…行ってらっしゃい。


ドアが閉まる。
辰也は帰ってしまった。

「…片付け、しなきゃ」

お皿洗ってしまって、あとシーツも洗濯して乾燥機に入れて、辰也が泊まったこと隠さないといけない。
いけないのに。
私はその場にうずくまった。

「…辰也」

不安なんてもうないはず。
ずっと、これからもずっと辰也と一緒だ。
わかってるのに、不安はないのに、辰也が恋しくてたまらない。

辰也といたい。辰也と少しでも長く、一緒にいたい。
不安からじゃなく、好きで、大好きだって想いから、一緒にいたいと、強く思う。

おはようって行ったり、行ってらっしゃいって言ってキスをしたり、一緒に台所に並んだり、ご飯を食べたり、夜を過ごしたり。
辰也とそんな毎日を、過ごしたい。

辰也が、大好きだよ。









14.04.04