「………」
、もういいから」

辰也は私の頭をよしよしと撫でる。

のせいじゃないんだから」
「…でも」

2月14日、バレンタインデー。
私だって今日、恋人のために一生懸命チョコを作ってきた。
…それなのに…。

「なんでよりによってこんな日に鞄池に落とすの…」

生まれて初めて池に鞄を落とした。
辰也と一緒に返っている最中、校庭の脇を通っていたとき、後ろを歩いていた一年生が勢いよく転んでしまった。
私もそのまま巻き込まれそうになったけど、辰也が咄嗟に支えてくれたから難は逃れた。

…その代わり、持っていたカバンが綺麗に池へと飛んで行ったのだ。
池には薄く氷が張っていたけど、それを破って鞄は池に沈んでいった。
一年生の子は必死に謝ってくれたし、携帯はポケットの中、教科書やノートはほとんどロッカー。
奥に入れていた財布はほとんど被害なし。
今日がバレンタインじゃなければ、ちょっとショックだけど話のネタにできそうな出来事だった。

「…っ」

ぎゅっと目を瞑ると涙が出てきた。
あまりおいしくなかったかもしれないけど、頑張って作ったチョコレート。
恋人という立場で、渡せないで終わるなんて思ってもみなかった。



辰也は優しく私の名前を呼ぶ。
顔を上げると、瞼にキスを落とされた。
瞼だけじゃなく、頬に額、唇に、たくさん。

「た、辰也」
「…ごちそうさま」
「え?」
「…チョコは確かに惜しいけど、でも、いいよ。が一生懸命作ってくれたんだから、それだけで」
「でも、やっぱり」
「うん、だからこれがチョコの代わりだ」

そう言うと辰也はもう一度キスをする。

「これで十分だよ」
「…うん」

気を遣ってくれてるんだろう、そう思ったけど、辰也の表情はそんな雰囲気ではなくて。
…残念な気持ちは変わらないけど、辰也が喜んでくれているなら、いいかなと思える。
だから、今度は私からキスをした。

「!」
「…これでいい?」
「うん、大満足だ」

辰也はぎゅっと私を抱きしめる。
苦しかった心が溶けていく。

「ホワイトデー、楽しみにしててね」
「え?」
「3倍返し、だろ?」

辰也は私の唇をなぞって微笑んだ。

「3倍…?」
「なんなら10倍でもいいよ」
「さ、3倍で」
「そう?残念だ」

3倍って…。
「何する気?」とは怖くて聞けなかった。







メルティキス
13.02.14

ハッピーバレンタイン〜
メルティキスおいしいですよね チョコで一番好きです

ホワイトデーの話→アルカディアの姫君





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