それは阿部と一緒に勉強していたときのこと。



「おい、そこのノート取ってくれ」

「おい、消しゴム落としたぞ」

「おい、何だよその目は」


何だその目は、ってこの目は生まれつきですよ阿部くん。第一あなたこそ何ですか。


「ねえ阿部。私の名前は”おい”じゃないのよ」
「あ?知ってるけど?何言ってんだお前」
「ついでに言うと、”お前”でもないの」

ここまで言えばいくら鈍感な阿部でもわかるだろう。そんな期待を込めていたのだけれど、阿部は私が考えるよりずっと鈍感だった。
さっきまで数学の問題集に集中していた目は私だけを見つめてる。

「まだわからない?」
「全くわからねー」
「じゃあもう一個言うと、私の名前はなんだよね」

いくらなんでもここまで言えばわかるだろう。そんな期待は再び打ち砕かれる。
阿部は今までにないくらい悩んでる。野球で使う頭はあっても、恋愛で使う頭はないのか。

鈍感な彼というのも厄介だけれど、そんな彼を好きになってしまったのは私。
これが自業自得というやつですか。

「お前の名前ぐらい知ってるけど」
「もういいよバカ」














09.08.05