「お前料理とかできんの?」

部屋に来た宮地が、私の本棚の料理本を見てそう言い放つ。

「できますけど」
「…へえー」
「信じてないでしょ」

そう言ってみると宮地は何も言わない。
やっぱり信じてないな、こいつ。

「いや、だってお前こんなガサツなくせに」
「失礼すぎる!」
「本当のことだろ」
「そこまで言うなら証明してやろうじゃない」
「は?」

…というが昨日の夕方のこと。
私は宮地にお弁当を作ることになったのでした。

だってあんな言い方されたら、ムキにだってなる。
私だって料理ぐらいできるんだから!

「……」

昨日準備しておいたので、ちゃっちゃとから揚げや煮物を詰めていく。
最後にご飯だ。

「…うーん…」

なんかシンプルだ。色味がないと言うか。
せっかくなら味だけじゃなく見た目でもぎゃふんと言わせたい。
何か、明るい色…。

「…いやいやいや」

明るい色で思いついたのが、その、愛妻弁当的なあれなんだけど。
いやいやいや、私そんなキャラじゃないし。

「……」

いや、本当、いくらなんでも、ねえ。
一応恋人同士っていっても、付き合う前と変わらずケンカばっかだし。
それなのに、そんな、ねえ…。






……なんでこんなことになったのか。
昇降口でに弁当を渡された。

「ちゃんと作ってきたわよ」
「お、おう」

別に「料理ができる」というのを完全に疑ったわけじゃねえ。
…まあ、ちょっとは「本当にできんのか?」とは思ったけど。
まさかマジで作って来るとは思わず。
いろんな手間を掛けさせたのはちょっと悪いと思う。

「…本当に作れんだな」
「だからそう言ってるじゃない。ちゃんと食べてよ」
「おう」

…彼女の手作り弁当か。
なんかこう、……うん。そうだな。

「じゃあ、昼一緒に食うか」
「えっ!?」

何気なくそう言ってみると、はやたらと驚く。

「どうしたんだ?」
「一人で!一人で食べて!」
「は?」
「いいから!わかった!?」
「お、おう」

は赤くなってそう言う。
なんなんだ?
まあ、もともとが作った弁当を友達の前で食べるのはちょっと、と思ってたところだ。
がなんか用あるなら、一人で食うか。

「あ」
「?どうしたの?」
「…いや、なんでもねえ」

なんでもなくない。なんでもなくねえんだけど。
まずい…。





「あれ、宮地さん今日弁当っスか?珍しー」
「……」

そう、今日はミーティングがあったんだった。
これはまずい。やばい。
特に今喋ったこいつ。高尾。
ぜってーなんか言ってくる。

「宮地、食わないのか?」
「…いや」

いや、大丈夫だ。
きっと普通の弁当だ。見ただけじゃ彼女からの弁当なんてわかんねーだろ。

「……っ!!!」
「おい、どうした?」
「…いや…」

そう信じて弁当箱を開けたけど、願いは届かなかったようだ。
なんか、ピンクのハートマークが見えた。

なんなんだ、あいつ。
普段はこんな…なんつーだ、彼女っぽいっていうか、こういうことしてこねえくせに。
なんで今日に限ってこんな…。

「どうしたんだよ。開けろよ」
「うわ、やめろバカ!」

横から木村が手を出して、オレの弁当を無理矢理開ける。
一瞬でオレの顔は真っ青になった。

「うわー!宮地さんハートマークじゃないっスか!」
「……っ」
「アレっスか?愛妻弁当ってやつっスか?」
「結婚していないのだから妻ではないのだよ」
「真ちゃ〜んそこはノリで行こうぜ〜?」
「……おい」

盛り上がる一年生。オレは立ち上がる。

「…お前ら、轢くぞ」

普段よりドスの聞いた声。自分でも少し驚くぐらいだ。
その声を聞いた周りの連中は固まった。






放課後、宮地から弁当箱を返された。

「どうだった?」
「…うまかった」
「ほ、本当?」
「…だけど…」
「なに?」
「…今日の昼、ミーティングがあったんだよ」

ミーティング。ミーティング…。

「ミーティングッ!?」
「……」
「え、な、なに、あれ、みんなの前で食べたの」
「……」

宮地は恥ずかしそうにそっぽを向く。
た、食べたんだ…。

「う、嘘でしょ…一人で食べてって言ったじゃん…」

よりによって、あのお弁当。
せっかく恋人にお弁当を作るなら、ちょっと恥ずかしいけど、ハートマークでもつけてみようか、そんなふうに思って作ったお弁当。
いつもはなんか意地張ってばっかりだけど、たまにはこういうのもいいんじゃないかと思って作ったお弁当。

あれを、みんなに見られたなんて。

「ば、ばか…」
「こっちのセリフだ…」
「うう…」

二人揃ってうなだれる。
よりによって、よりによって…。

「…もう、作ってこない」
「え?」
「だって」
「べ、」
「?」
「…別にいいだろ。その…ミーティングのときじゃなきゃ」
「え、でも」
「…作ってくれって言ってんだよ!」

宮地の言葉に赤くなる。
…これは、その、お弁当、喜んでくれたんだよね?

「み、宮地」
「…なんだよ」
「…ハートマークは」
「…好きにしろ」






もう一回
13.08.20

もう一回ハートマークで作ってきます
高尾を出せたのが嬉しいです


感想もらえるとやる気出ます!