「葵、寒くないかい?」
「平気!」

お父さんが買い物に行くというので僕も着いていくことにした。
手を繋いで一緒に商店街まで歩いている。

「お父さん、何買うの?」
「お花だよ。にあげるんだ」
「お花」
「バレンタインだからね」

ばれんたいん、この間幼稚園の先生が言っていた。
女の子が好きな男の子にチョコをあげる日だって。

「お父さんがあげるの?お母さんじゃなくて?」
「そうだよ。女の人が男の人にあげるのが普通だけど、オレはにあげたいんだ」

お父さんは僕の頭をくしゃりと撫でた。
よくわからないけど、お母さんはお父さんにお花をもらったらとっても喜ぶだろう。

「お母さん、喜ぶよ」
「そうだね、喜んでもらいたいな」

手をつないで歩いていく。
一番お家から近いお花屋さんに着いた。
お花屋さんのお姉さんが「いらっしゃいませ」と笑いかけてくれる。

「今日も奥さんにですか?」
「バレンタインですから」

お父さんはお花屋さんのお姉さんと知り合いのようだ。
お父さんはちょくちょくお母さんにお花を買ってくる。
お母さんの誕生日とか、お父さんとお母さんが結婚した日とか。
それ以外にも何にもない日とかにもお花を買ってくる。
に似合うと思って」と言ってお花を渡されたお母さんは、いっつも嬉しそうだ。

「君のお母さんは幸せ者ね」

お姉さんにそう言われて、よくわからないけど頷いておいた。
だって、僕はお父さんとお母さんと一緒にいて楽しいし。

「お父さん、なに買うの?」
「バレンタインは薔薇って決めてるんだ」

お父さんは真っ赤な薔薇をお姉さんに頼んでる。
あと、ちっちゃい白い花も。

「それはなあに?」
「カスミソウって言うんだよ」
「かすみそう」
「うん」

かすみそうはちっちゃくて可愛いお花だ。
くんくんとにおいを嗅いだら甘いにおいがした。

「お父さん、お父さん」
「ん?」

くいくいとお父さんの服の裾を引っ張る。
お父さんはしゃがんで「どうした?」と聞いてきた。

「僕も買ったら、お母さん喜ぶ?」

バレンタインは女の人が好きな男の人にチョコを渡す日だって言ってた。
でも、お父さんはその逆でもいいんだよって言ってた。
だったら、僕もお母さん好きだから、お花あげたい。

「すごく喜ぶよ」

お父さんはにっこり笑って僕の頭を撫でてくれた。
嬉しくなって僕もにっこり笑う。
ごそりとポケットの中を握りしめた。

「あのね、お正月におばあちゃん家行ったとき、肩たたきして50円もらったよ」
「そっか。じゃあ、好きなのを頼もう」

お父さんにぽんと背中を押される。
お花屋さんにはたくさんお花がある。
どれにしようか迷ったけど、一つオレンジのお花見つけてすぐに決まった。

「これがいい!」
「うん、よし」
「足りる?」
「うん、大丈夫」
「やったあ!これ、一本ください!」
「ガーベラね。これでいい?」

お姉さんに言ったら、にっこり笑ってお父さんの買った薔薇の花束に一本僕の指さしたお花を入れてくれる。

「50円!」
「はい、ありがとう」

お姉さんに50円を渡す。
初めてのお買い物だ。ちょっとドキドキする。

お父さんもお金を払って、お花屋さんを出た。
お父さんは赤い薔薇の中に一本だけオレンジの…ガーベラ?が入った花束を抱えている。

「お母さん、喜んでくれるかなあ」
「喜んでくれるよ、大丈夫」

お母さんの笑った顔を思い浮かべる。
家に帰ったら、お母さんに好きって言わなくちゃ。

「今日はバレンタインだけど、好きだっていうのはいつ言ったっていいんだよ」

お父さんは目を細めながら僕に言う。

「いつでも?」
「うん、いつでも。今日も明日も明後日も。言いたくなったら、いつだって言えばいい。バレンタインじゃなくても、いつだって」
「いつでも」
「そうだよ。大好きだよ、葵」

お父さんは僕にそう言ってくれる。
嬉しくなって僕も「お父さん大好き!」と言ったら笑ってくれた。



「ただいまー!」
「ただいま」
「おかえりさない」

お父さんと一緒に家に帰ると、お母さんが玄関に迎えに来てくれる。
靴を脱いで、すぐにお母さんに抱きついた。

「お母さん、お花買ってきたよ!」
「葵が?」
「うん、このオレンジのやつ!」

お父さんの持っている花束の中のオレンジの花を指さした。
お母さんはにっこり笑ってくれる。

「ありがとう。すっごく嬉しい」
「えへへ」

お母さんはぎゅっと僕を抱きしめ返してくれる。
あったかい。

「薔薇とね、この白いの…かすみそうはお父さんだよ」
「はい」

お父さんはお母さんに花束を差し出す。
お母さんは立ち上がってお父さんから花束を受け取った。

「愛してるよ」
「ありがとう。私も」

お父さんとお母さんがキスをする。
帰ったときとか、朝起きてたときとか、いつもしてるからほかのお父さんとお母さんもそうかと思ったら違うらしい。
幼稚園の友達に言ったらびっくりされてしまった。

「二人にチョコあるのよ」
「僕のも!?」
「もちろん」
「やったー!」

嬉しくなってリビングまで駆けだした。
おやつの時間だ!

「こら、手洗ってからね!」
「はーい!」

手を洗って、リビングのソファに座ってお母さんが作ってくれたチョコレートを食べた。
電話の横には僕とお父さんの買ってきた花が飾られている。
真っ赤なバラの後ろに白いかすみそう、手前に一本だけオレンジのお花が飾ってある。

「ふふ、お母さんもお父さんも大好き!」

明日も、明後日も、その次の日もずっとずっと言おう。
だってお父さんとお母さん大好きだから!














You are my sunshine.
14.02.14







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