朝方、学校に行く途中でコンビニに寄ってペットボトルのお茶を買った。
そのペットボトルにはおまけがついていた。パンダのストラップだ。
昔、このパンダにキスさせるCMがやっていたっけなあと思いながら、携帯につけた。
*
委員会の仕事を終え、教室に戻るとクラスメイトの黛くんが窓際の席に座っていた。
机の上には本が一冊広げられている。
「あれ…」
よく見ると彼は頬杖をついたまま寝ているようだ。
こんなところで眠ってしまうとは珍しい。
「……」
自分の席…黛くんの前の席に座って、宿題の英語のノートを取り出して鞄に仕舞う。
できるだけ、音を立てないように。
「……」
それにしてもよく寝ている。
黛くんとはそれなりに仲がいい方(私としては)だけど、こんな姿は初めて見た。
ちょっとした思い付きが頭に浮かぶ。
ほんの少しの悪戯心だ。
鞄から携帯を出して、パンダのストラップを取り外す。
そっと黛くんの唇に、パンダの唇を押し当てた。
「…奪っちゃった〜…」
…なーんちゃって…。
……。
自分でやってすごく恥ずかしい…。
赤くなる頬を必死に隠しながら、パンダを携帯に戻す。
帰ろう。とりあえず頭を冷やそう。
「…あれ、お前…」
「うわああああっ!?」
鞄を持って立ち上がると、黛くんが目を覚ました。
私は思わず大声を出した。
「…何そんなビビってんだよ」
「い、いやちょっとびっくりしちゃって」
「…顔に落書きでもしてたんじゃねーだろうな」
「してない!してないから!」
慌てて否定するけど、黛くんは疑いの眼差しのままだ。
落書きはしてない。断じてしてない。
…何かしたってこと、ばれてないよね…?
「…あっそ。あー…寝ちまった」
「あ…ね。珍しいね、こんなところで寝て」
「ん…」
黛くんは両腕を伸ばして伸びをする。
そしてそのまま立ち上がった。
「行くぞ」
「え?」
「?帰るんじゃねーの、そっちも」
「あ、うん!」
一緒に帰ることになるとは思わず、胸を躍らせる。
携帯を丁寧に鞄に閉まって、黛くんの隣を歩き出す。
ときどき、彼の唇を盗み見ながら。
奪っちゃった
15.04.21
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