「…勉強すんの、やだね」 中学3年生、1月後半。受験真っ只中とはこのことである。 目の前の机の上には過去問とシャーペンと赤ペンと。鞄の中には赤シートと単語帳と。 その他諸々、受験対策に必要なものがたくさん。すべて燃やして、早く楽になってしまいたい。 「そないなこと、言ってられへんやろ」 机を挟んで向こう側、白石は厳しい面持ちでズバッと言われた。 なによ、自分は頭いいからって。いや、今はひがんだってしょうがないからやめよう。 「だってさー…4月から勉強してんだよ?いい加減解放されたいよ」 「あと1ヶ月もあらへんやん。辛抱しいや」 ぽんぽん、と私の頭に手を置いた。温かい手。この温かい手を感じられるのもあと2ヶ月。 白石と私の志望校は違う。白石はやっぱりテニス部の強いところに行くし、私の第一志望は普通の公立校。 「ずーっと中学生でいれたらいいのに」 白石と違う学校行くの、やだよ。そう言ったら「俺もやで」と言われた。 「ずーっと中学生のままやったら、ええのにな」 うそつき、うそつき、うそつき。だったら何で私が行けないようなレベルの高い高校を選んだの。 私が行けるレベルのところでも、テニスの強いところはたくさんあるじゃない。 白石が私のために志望校を変えることなんてない。それはわかってる。 私のために変えたりなんかしたら、白石のことを嫌いになってたかもしれない。だから、いいんだよ。 だけど、どうしても、寂しくて。中学を卒業したら、もう、今みたいに会えないなんて。 頭では理解してるのに、感情が付いていかないって、こういうことを言うんだろう。 「中学生のまま、と一緒にいれたらなあ」 白石の手は私の頭を優しく撫でる。あと2ヶ月。 その2ヶ月が、永遠になればいいのに。 白石は、勝手にどんどん大人になってく。自分で志望校を決めて、私と離れることも一人で決めて。 「ずっと中学生のまま」なんて、本当は思ってないんだろう。白石は、私と違って大人だから、きっとそんなこと思わない。 ずっとずっと、中学生のまま、白石の隣にいられたら、もう何もいらないのに。 そんなことを思ってるのは、私一人だけ。 ネバーランドは今も孤独 08.01.23 |