「…あ」
部活中、洗濯物を干していると、空模様が怪しくなっているのに気付く。
今日雨の予報なんてなかったけど…。
「わ!?」
そんなことを思っていたら、あっという間に空は真っ暗。
大粒の雨がバケツをひっくり返したように降ってきた。
「わー!」
慌てて干しかけの洗濯物を取り込む。
せっかく洗濯したのに…!
「大丈夫〜?」
後ろから長い手が伸びてくる。
敦だ。
「はい、これ持ってくよ〜」
敦は干してあった洗濯物をぽいっとまとめて洗濯籠へ。
その籠を軽々持つと、部室の方へ歩いていく。
「あ、敦!」
慌てて敦を追いかける。
さすが2mオーバー。普通に歩いているだけなのに早い…!
「雨、すっごいねー」
「うん…敦、ありがとうね」
「別に〜。ちんのこと手伝わないと室ちん怒るからさあ」
敦はそう言うけど、敦はなんだかんだ優しい子だなあ。
「ふふ…くしゅっ」
「わー、ちんびしょ濡れ」
「ん…」
確かに雨のせいでびしょびしょだ。
ちょっと寒い。
「わっ」
「風邪引いちゃうよー」
敦はそう言いながら私の頭を大きなタオルでわしゃわしゃ拭いてくる。
「あ、敦、大丈夫だよ」
「ちんが風邪引いたらめんどくさいじゃん」
「?」
「室ちん不機嫌になりそうだし、ドリンク作ってくれる人いなくなるし、あとなんかやだ」
敦の言葉に思わず吹き出す。
『なんかやだ』って…。
「敦、ありがと。大丈夫、自分でやるから」
言い方はわかりにくいけど、敦なりに心配してくれてるんだろう。
敦からタオルを受け取って、自分で頭を拭く。
「あとこれ貸してあげる〜」
「え?」
そう言って敦が自分のロッカーから出してきたのは、自分のジャージ。
「濡れたの着たままだと風邪引いちゃうでしょ〜」
「でも…」
なんというか、彼氏以外のジャージ着るのって、よくないような…。
敦は何にも考えていないんだろうけど…。
「?どしたの?」
「んー…」
「もー」
「わ!」
敦のジャージを持って固まっていると、敦がジャージを取り上げる。
「着なって〜」
「だ、大丈夫」
「もー、わがまま」
「…二人とも、何してるの」
「!」
敦のジャージを巡って攻防(?)を繰り広げていると、部室の扉が開く。
そこにいるのは、辰也。
「楽しそうだね」
「い、いや、別に」
辰也の顔は心なし…いや、とても不機嫌だ。
これは、よくない。
「…オレ体育館戻るね〜」
「あ、ちょっ…」
敦は危険を感じたのか、足早に部室を出て行ってしまう。
…ま、まずい。
「何してたの?」
「いや、別に大したことじゃ」
「ふうん?」
辰也は笑顔だけど目が笑ってない。
どうにかこの場を切り抜けようと必死に頭を巡らせる。
「辰也、あの…あ、ほら、部活行かなきゃ!」
「…そうだね」
「え?」
とりあえず言ってみただけなんだけど、辰也はあっさり受け入れる。
「…部活が終わったらゆっくり聞かせてもらうね」
「!」
あ、これ、余計にまずいことになってる。
ど、どうしよう…説明したらわかってくれるかな…。
いや、辰也だし…。
「あ、あの、辰也」
「…とりあえず、濡れた服着替えて。オレのジャージ貸すから」
「あ、うん」
辰也はロッカーから自分のジャージを取って渡してくれる。
敦のほどじゃないけど、大きい。
「……」
「?」
自分のジャージを脱いで辰也のジャージを羽織ると、なんだかドキドキする。
…あ、そうか。
「辰也のにおいがする」
辰也のジャージは当たり前だけど辰也のにおいがする。
なんか、ちょっと、いいな。
「?洗濯したやつだけど…」
「あ、そうじゃなくて…」
「他のにする?あったかな…」
「あ、やだ!」
ロッカーを探る辰也から一歩下がる。
これが、いい。
「?」
「これがいいの!」
「?」
「…辰也とずっと一緒にいるみたい」
辰也のにおいがするジャージ。
辰也がずっと傍にいるような感じがして、ちょっと嬉しい。
「…もう」
「?」
「毒気抜かれちゃったな」
辰也はぽん、と私の頭に手を置く。
「いいよ、もう。ただオレ以外のやつの服とか着たらダメだよ」
「うん」
もともと他の人の服なんて着る気はない。
辰也のがいい。
*
「〜♪」
「なんかちんご機嫌じゃない?」
「だな。なんかいいことあったのか?」
「?そうなのかな〜室ちん恐そうだったのに」
彼のにおい
13.10.20
彼ジャー話です
多分毒気抜かれて氷室さんはたくさんヒロインのこと可愛がるんだと思います
結局オチが変わらないという
感想もらえるとやる気出ます!
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