朝、学校へ行く途中、前を歩く氷室を発見。
「氷室、おはよう!」
「ああ、、おはよう」
教室までの道を、「寒くなってきたんだね」なんて話をしながら歩いてく。
氷室とは、仲がいい。多分、女子の中では一番いいだろう。
氷室とは席がとなり同士で、一度氷室が部活の試合で授業を休んだとき、そのときのノートを写させてあげたときから少しずつ会話するようになった。
最初は私も氷室のことを「綺麗な顔してるなあ」ぐらいにしか思わなかったけど、今はもうそれだけじゃなくて。
もっと仲良くなれたらな、と、そう思っている。
*
「だから、絶対行けるって」
「そうかなあー…」
放課後、友人と教室を出て昇降口へ向かう途中。
少し小さな声でおしゃべり。
この子には、散々「氷室に告白しろ」と促され続けてる。
「だって、あんなに仲いいじゃない」
「いや、仲はいいけどさ…」
「なんでそんなにネガティブなのよ」
だって、告白してうまくいけばいいけど、ダメだったら。
今までみたいに話したりできなくなるかと思うと…。
「だから、99%いけるって」
「残りの1%は?」
「だーかーら!」
「そりゃ私だって、ちょっとは「うまくいくかな」って思ってるよ。でも、それでもしダメで話せなくなったりしたら嫌だし」
昇降口に着き、自分の下駄箱を開けながらそう言う。
すると、中には見慣れないものが。
「?」
シンプルな白の封筒。
なんだろう、と一瞬思って、ハッとする。
「え、えええ!?」
「あれ、、ラブレター?」
至って普通に聞いてくる友人。一方の私はそれどころじゃない。
「誰から?」
「え、えっと…」
恐る恐る封筒を開ける。
そこに書かれていたのは、一年生の男子の名前。
「『明日の昼休み、体育館裏で待ってます』だって。完全にラブレターじゃない」
「う、うん…」
「知ってる子なの?」
「…多分、委員会一緒の子だと思う」
この名前には見覚えがある。
確か、前に委員の集まりがあったときに、少し話した子だ。
まさかその子からラブレターなんて…。
「断るんでしょ?」
「そりゃ、もちろん…」
申し訳ないけど、好きな人がいる。付き合うことはできない。
「もがんばりなさいよ」
「え?」
「この子だって、きっとダメもとで告白してきてるんだから」
友人の言葉に胸がざわつく。
そう、だよね。
私とこの子は、委員会で少ししゃべった以外、ほとんど話したことがない。
きっと、勇気を出して手紙を書いてくれたんだろう。
じゃあ、私は…。
*
「じゃあ、その、行ってきます」
「がんばって来なねー」
次の日、午前中の授業が終わって手紙に書かれていた場所へ向かう。
告白されるのなんて初めてだから、心臓が爆発しそうだ。
体育館裏へ行くと、すでに彼はそこで待っていた。
「あ、ごめんね。待たせちゃって」
「いや、いいんです。オレが勝手に呼び出したんで」
「う、うん…」
まずい、本当に緊張してきた。ちゃんと喋れるだろうか。
「あの、先輩」
「は、はい」
「好きです!付き合ってください!」
ちょ、直球…!
そりゃ、告白してきてるんだから当たり前といえば当たり前だけど、真っ直ぐな言葉にドキドキする。
「あの、えっと」
「…はい」
彼は緊張した面もちで私の言葉を待つ。
少し、申し訳ない気分になるけど、こればかりは仕方ないことだ。
「私、好きな人がいるので…ごめんなさい」
「…そうですか」
少し恥ずかしいけど、ちゃんと言わなくちゃ。
彼は少し寂しそうに笑った。
「あの、大丈夫です。ダメ元っていうか…そんな感じでしたし」
「…うん」
「…ちょっと、変なこと聞いていいですか?」
変なこと、ってなんだろう。
「どうぞ」と言って促すと、言いにくそうに話し始めた。
「…先輩の好きな人って、氷室先輩ですか?」
「え」
「………」
「え、えええ!?」
な、なんで知ってるの!?
思いがけない言葉に顔を真っ赤にして慌てふためくと、彼は「やっぱり」という。
「え、な、なんで…」
「登校中とか、移動教室で2年生の階とかに行ったとき、よく話してるの見ましたから。…それに、そういうときの先輩、すごく嬉しそうでしたし」
「あ、そ、そうなんだ…」
まさか、こんなことを言われるとは思わなかったから、余計混乱してしまっている。
しかも、後輩にまで自分の恋心を知られていたとは…。
「あの、オレがこんなこと言うのも変かもしれませんけど」
「?」
「先輩と氷室先輩、お似合いだと思いますよ。がんばってくださいね」
「!」
自分を好きだと言ってくれた子が、自分の想いを応援してくれるなんて。
「それじゃ、失礼します」
「あの」
「?」
「ありがとう、本当に。嬉しかったよ、告白してくれたことも、その、応援してくれたことも」
そう言うと、彼は嬉しそうに笑って教室の方へ歩いていった。
…私が氷室のこと好きかもって、そう思っていたのに、告白してくれたのか。
だったら、私も彼みたいに勇気を出さないと。せっかく応援してくれたんだし!
よし!と気合いを入れると、驚くことに目の前に思い浮かべていた人が現れた。
「、何してるの?」
「え…え、氷室こそ、なんでここに」
「部活でミーティングしてたんだよ」
あ、そうか…。ここは体育館裏。バスケ部の氷室がいたっておかしくはない。
…ってことは、もしかして、さっきの会話…
「それより、今の話」
「!き、聞いてたの…?」
やっぱり、聞かれてしまったんだろうか。
そうしたら、私の気持ちとか、全部聞かれてしまったんだろうか。
「いや、話は聞いてないけど」
「そ、そっか…よかった」
勇気を出そうと決意したものの、やっぱり本人を目の前にするとうまくいかない。
聞かれていなくてよかった…。ほっと胸を撫で下ろす。
「聞こえてないけど、何していたかはわかるよ」
安堵したのもつかの間、いきなり氷室は私の腕を掴んだ。
「氷室?」
「こっちに来て」
さっきは自分のことでいっぱいいっぱいで気付かなかったけど、氷室はずいぶん険しい表情をしている。
怒っているような、そんな顔。
私の腕を掴む手も力強い。
手を引かれ連れてこられたのは、特別教室棟の中。
そこの端にある、今はもう使われていない教室。
「わっ!」
ドアの傍の壁に押し付けられて、両側に手を付かれて逃げられないようにされる。
「ひ、氷室…?」
鋭い瞳に思わず怖気づく。
どうしたんだろう。何が、あったんだろう。
「ね、ねえ、どうしたの…?」
「…わからない?」
氷室は私の耳に右手を掛ける。
な、何、を。
「氷室、あの」
「…アイツに告白されて嬉しかった?」
「え?」
思っても見ない言葉に一瞬目を丸くする。
「真っ赤になって、すごく嬉しそうだった」
「それは、その」
嬉しかったのは、氷室とお似合いだと言われたから。
だからって、まさか言えるはずもなく。
「オレには言えないの?」
「だ、だって、それは…」
俯く私を見て氷室はますます怪しんだようで、また目を鋭くした。
そして、私の唇を指で撫でて言葉を促す。
「ちゃんと言って」
「いや、その」
私が言い淀んでいると、氷室は私の首筋に優しく触れる。
そのまま、つ…と撫でられて思わず息を吐いた。
「ひ、氷室」
「…アイツと付き合うの?」
「ち、ちが…っ」
違うと否定しようとしても、首筋を撫でる氷室の指が、くすぐったいのと、もう一つ、何か違う感覚を生み出して、うまく喋れない。
「…っ…」
身をよじって逃げたいけど、私の横の壁に氷室が腕を突いていて逃げられない。
「…ね、ねえ、あの、私」
「渡さないよ、誰にも」
何を、と
思って目だけ氷室に向けると、氷室は私の顎に手を掛ける。
そのまま顔を上げさせて、キスをされた。
「…んっ…!?」
驚いて思わず両手で氷室の胸を押すけど、離れるどころか余計に体が近づく。
何が起きてるのか、わからない。
「…ふっ…」
氷室は中々離してくれず、息が苦しくなって、肩が震える。
そんな私の様子を察したのか、ようやく解放してくれた。
「ひ、ひむろ」
「好きだよ」
ボーっとした頭に響く言葉。
それは、私がずっと欲しかった言葉で。
「が好きだよ。誰にも渡したくない」
氷室は私の頬を撫でながらそう言った。
今までの虐めるような触れ方とは違って、すごく優しい感触。
「氷室、ねえ、あの、私」
私も自分の気持ちを伝えようとするけれど、氷室は聞きたくないと言うかのように、もう一度唇を押し付ける。
キスをされるのは、嫌じゃない。寧ろ嬉しい。
氷室も私を好きだと言ってくれて、その気持ちからキスをしてくれたなら、当たり前だ。
でも、それよりも、今はちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
氷室の制服を軽く引っ張ると、氷室は唇を離した。
「ねえ、氷室。お願い、ちゃんと聞いて」
「……」
「私も、同じだよ。氷室が好きだよ」
必死に紡いだ私の言葉に、氷室は目を丸くする。
「告白されたのは本当だけど、ちゃんと断ったよ。好きな人がいるからって。それで、言われたの。その好きな人は氷室かって。それで、氷室とわたしがお似合いだって言ってくれて、それが、嬉しかったんだよ」
氷室の制服の裾を掴んで、目を見て今までの気持ちを全部伝える。
そうすると、氷室は自分のおでこと私のそれを合わせる。
「…本当?」
「こんなことで嘘吐かないよ」
「…うん、知ってる。はそういう子だ」
それでもまだ信じられないのか、氷室の目は少し揺れている。
「夢みたいだ」
「夢じゃないよ。…それに、それはこっちの台詞だよ」
「も?」
「うん。だって、そもそも今まで告白なんてされたことないのに、いきなり一日で二回も告白されるし、しかも、一人はその、氷室だし」
私が言い終えるより前に、再び唇を塞がれる。
「ひ、氷室」
「さっきのは忘れて」
「さっきの、って」
「告白されたこと。いいんだよ、に告白したのは、オレだけで」
「で、でも、ちゃんと断ったよ?」
「それでも、オレだけでいいんだ。だって、が好きなのはオレだけだろ?」
そう言われれば、そのまま頷くしかない。
氷室は私が首を縦に振ったのを見て、もう一度キスをする。
さっき想いが通じ合ったばかりなのに、キスをするのはもう何度目だろう。
一度唇を離しても、またすぐに角度を変えてキスをして。
だんだん頭がくらくらしてきて、ぼんやりした頭の隅で、チャイムが鳴ったのが聞こえた。
「…ひ、氷室」
「なに?」
「あの、もう授業が」
また私の言葉の途中でキスをする。
私の口が少し空いているのを良いことに、氷室の舌が私の口内に入り込んでくる。
元々ボーっとしていた頭にそれは毒で、もう何も考えられない。
「どうでもいいよ、授業なんて。こっちのほうがよっぽど大事だ」
よくないよ、と言おうとするけど、氷室は言いたいことを話すとすぐにまたキスをするから、私は何も喋れない。
「…はっ…」
「苦しい?ごめんね」
肩で息をする私を見て、氷室は優しく私の頬を撫でる。
「でも、やっとオレのものになったと思うと止まらないんだ」
そう言ってまたキスをする。
ダメだと言ったはずなのに、もう授業が始まっているのに、いつの間にか、私も夢中で氷室と自分の唇を合わせている。
だって、私だってずっと待ってた。氷室が私の物になるのを。私が、氷室の物になるのを。
もう、全部どうでもいい。目の前にいる、この人がいれば。
溺れる
12.11.06
リクエストの氷室嫉妬話です
アオイさんありがとうございました!
非常に細かくシチュを書いてくださったので書きやすかったです
もうプロット:アオイさん と書いたほうがいいくらいです!
でも最後にキスさせまくったのは私の趣味です
というか自分でもこんなにキスさせるとは思いませんでした…
書いてたら勝手にこんなことになってました なんかすみません
感想もらえるとやる気出ます!
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