「おーい、ー」

お昼休み、お弁当を食べ終わって図書館にでも行こうかな、と廊下を歩いていたら日本史の先生に呼び止められた。
なんか嫌な予感…と思ったら案の定。

「次の授業の準備、手伝ってくれない?」



「うわ、何ここ!」

先生に言われた通り、社会科準備室に行くと埃だらけになっていた。
そういえば社会科準備室は最近あまり使われなくなっているらしい。
だからこんな物置みたいなことに…。
とりあえず先生に言われた教材を探さなくては。

よーし、と気合を入れて腕をまくると、扉の開く音がした。

?」
「あれ、氷室。どうしたの?こんなとこで」
「オレも手伝い押し付けられちゃってさ」

氷室も一緒なのか。内心心を躍らせる。
正直1人で持てる量じゃないし、それに何より、氷室となれば。

「で、日本地図と日本史全集と…あとなんだっけ?」
「あ、ちょっと待って。私メモもらってきてるから」

2人で持って行くものを確認してから教室の中を眺めた。
真ん中に机と椅子が積み上げられてて教室は丁度二分割されているようだ。
どうやら教室の前半分に歴史系の教材が集められているようだ。

「えっと、日本地図は…この2メートルくらいの高さのやつだよね?」
「全集はこの積みあがってる一番下にあるやつ…かな」

私と氷室は大きなため息をついた。
持って行くのも大変だけど、取り出すのも大変だ…。

黙々と取り出す作業を始めると、また扉の開く音がした。
後ろ側の扉のようだ。ここからだと机が邪魔でよく見えない。
こんな教室に用がある人なんて、そうそういないと思うんだけど…。
誰だろう、そう思って机の間から覗こうとしたら、氷室も同じことを思ったらしく私と同じ行動をとっていた。
そうしたら、可愛い女の子の声が聞こえてきた。

「突然呼び出してごめんなさい。その、どうしても伝えたいことがあって…」

!これはもしかして…、もしかしてなくても…。
私と氷室は顔を見合わせた。
「ここにいたらまずいんじゃ」、と言おうとしたら氷室の指が私の口を押えた。
そのまま自分の口に持って行くと「しー」とジェスチャー。
そうか、確かに喋ったほうがまずいよね…。
…というか、結構恥ずかしいことをされたような気がするけど、氷室は表情変えてないし、気にしないでおこう…。

「初めて会った時から、ずっと好きでした!」

おお!告白した!
盗み聞きなんて悪いことしてる自覚はあるけど、やっぱり釘付けになってしまう。

「うん、その…俺も好きだったよ!」
「ほ、本当に!?うれしい!」

漫画のようなワンシーン。私のテンションも最高潮。
全く知らない2人だけど心からおめでとうと思える。
いいシーンだ…!

2人は微笑み合うと幸せオーラを纏いながら教室から出て行った。

「…もう大丈夫?」
「みたいだね」
「いやあ、びっくりしたね」
「告白シーンって初めて見たよ、オレ」
「私も!」

少し興奮気味に相槌を打つと、氷室はくすっと笑った。

「え、私なんか変なこと言った?」
「いや、明るくていいなあって思っただけだよ」

氷室はやわらかく笑ってて、私はなんだか少しだけ恥ずかしくなった。

「さ、早く準備しちゃおうか」
「う、うん。そうだね」

興奮したせいか顔が熱くなってる。
ふう、と一息ついて作業を進める。

「でもよかったね。上手く行って。全然知らない子たちだけど、幸せそうなところ見るのっていいなあ」

息を吐いてみてもやっぱり興奮は収まらない。
いいなあ、とても幸せなシーンだ。

はいい子だね」
「え?」
「人の幸せなところ見て、そこまで喜べるんだから、いい子だよ」
「でも、氷室も嬉しそうだよ?」

日本地図を抱える氷室の顔は心なしか嬉しそう。
あまり表情の変わらない人だけど、なんとなくわかる。

「そりゃ、嬉しいよ」
「でしょ?」
「だって、と二人きりだから」
「…え」

氷室、と呼ぶ声は昼休み終了を告げるチャイムでかき消された。
え、ええ!?このタイミングで!?


「は、はい」
「放課後、ここで待ってるよ」

放課後、ここ、さっき告白の行われていた、この場所で。

「教室に戻ろう。授業始まっちゃうから」
「え、う、うん」

うまく回らない頭のまま、日本史の資料集を持って教室に戻る。
これは、期待しても、いいんだろうか。



















同じ場所で、同じセリフを
12.12.05

リクエストの氷室→←ヒロインの話でした
ゆずさんありがとうございました!

ヒロインの唇に当てた人差し指をそのまま自分の唇に持って行くっていうのをずっと使いたかったんですがようやく書けました














感想もらえるとやる気出ます!