今日の練習も終了。
みんなで監督のもとに集まって号令だ。
「一つ連絡がある」
「?」
「来週の土日なんだか、少し私用があってな…顧問の先生もその日は出て来られないから、悪いが来週の土日は部活はナシだ」
監督の言葉にわっと歓声が上がる。
監督は悪いと言うけど、毎日部活があるから連休というのはちょっと嬉しい。
「…言っておくが、土日練習がない分その次は存分にしごいてやるからな」
「「え」」
今度はみんな凍りついた。
…再来週は大変そうだ。
*
「お疲れ様でしたー」
辰也と一緒に部室を出て、家路につく。
「ねえ、来週の土曜日さ」
「うん」
話は自然と休みの話になる。
今まで連休なんてなかったから、今回の休みはとても貴重だ。
いつも行けないようなところに行けそう。
次の日のことを気にしなくていいから、遠出したっていい。
どこに行こう。
「実はさ、これが当たったんだ」
「?」
辰也はそう言って鞄の中から紙切れを取り出す。
そこに書かれているのは、「温泉ペア宿泊ご招待券」。
「温泉!?」
「うん、雑誌の懸賞で当たったんだ」
「すごい!」
チケットをまじまじ見ると、どうやらかなりいい宿のようだ。
おそらく、普通に行ったら相当高い。
「露天風呂付きだって、すごいね…のんびりできそう」
「うん。じゃあ来週の週末はここに行こうか」
………え?
「え?ええ…?」
「最初は行く暇ないから誰かに譲るか金券ショップにでも売ろうかと思ったんだけど、ちょうど休みになったし」
「え、ちょ、ちょっと待って」
そこじゃない!私が聞いてるのはそこじゃない!
「わ、私と二人で行くの…?」
「ペアって書いてあるだろ?」
「そ、そうだけど…他の人とか」
「誰?」
「家族とか、友達とか」
「オレはと行きたいんだよ」
辰也はじっと私を見つめる。
え、で、でも、旅行!?
まあ、その、「そういうこと」はすでにしているんだけど。
旅行となると話は別だ。
すぐには頷けない。
「、嫌?」
「嫌って言うか…親になんて言えば」
「適当に言えばいいだろ。友達と旅行とか、友達の家に泊まるとか」
「でも…」
「じゃあ、この券は無駄になっちゃうな」
「う」
「と行けると思って楽しみにしてたんだけど」
辰也は悲しそうな顔でそう話す。
…なんか、悪いことをしている気分だ。
「、オレと旅行行くのは嫌?」
切なげな顔でそう言われれば、もう降参。
その顔に弱い私は、結局旅行へ行くこととなったのだ。
*
「広い部屋だね」
「う、うん…」
あっという間に旅行の日。
長いこと電車に乗って、目的地の温泉旅館に着いた。
通されたのは一軒家のようなタイプの部屋。
思っていたよりずっと広い。
「あ、お、お茶いる?」
「ありがとう」
備え付けられた急須で辰也の分と自分の分のお茶を淹れる。
と、とりあえず、落ち着こう。
お茶でも飲んで落ち着こう。
うん、深呼吸だ。
「そういえば電車の中にいた子供たち、可愛かったね」
「あ、あのお兄ちゃんと妹の?」
「そう」
道中の話を振られ、電車の中の出来事を思い出す。
移動距離が結構あったので、これまでの間もいろいろなことがあった。
そんな話をしていると、少し落ち着いてきた。
「ねー、切符失くしたかと思って焦ったよ」
「普通にポケットにあったからね」
「本当、慌てさせちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だよ」
笑い合っていると、辰也は自分の時計を見る。
「もうこんな時間だね」
「?」
「そろそろ温泉に入ろうか」
「!!」
辰也の言葉に、落ち着いた心が再びざわつく。
「ここは部屋ごとの露天が有名なんだよ」
辰也が重々しい扉を開けると、そこには小さめの露天風呂。
こ、これは…!
「この広さなら二人で入っても余裕があるね」
「え!?」
「一緒に入ろうか」
「え、ええ!?」
一緒にって、一緒にお風呂!?
「」
「そ、それはちょっと…」
「…嫌?」
「う、うん…」
「どうしても?」
一緒に旅行に来るような仲だけど、お風呂となると話は別。
辰也は眉を下げて聞いてくるけど、それでも…。
「ご、ごめん…」
「…そっか」
辰也はすごく残念そうな顔をする。
ご、ごめんなさい…。
でも、「一緒にお風呂」は私にはハードルが高すぎる。
「じゃあ、先に入って」
「…うん」
「…15分で上がってね。過ぎたらオレも入るから」
「え!?」
「はい、急いで」
「せ、せめて20分で!」
「10分のほうがいい?」
「15分で上がります!」
そう叫ぶように言って露天風呂へ。
うう、15分じゃせっかくの露天風呂も満喫できないじゃない…。
そんなことを思いながら手早く服を脱いで露天風呂へ。
「はあ…」
ちゃっちゃと体を洗って温泉で浸かって一息吐く。
さすがは露天風呂、鳥の鳴き声なんかが聞こえて来たりして屋内のお風呂と違って趣がある。
…辰也、一緒に入りたかったんだろうなあ…。
私もこういうのんびりした雰囲気は一緒に味わいたいとも思うけど…。
「……」
やっぱりダメだ。
一緒に入るなんて、想像しただけで赤面してしまう。
ごめんね、ともう一度心の中で謝って、立ち上がる。
そろそろ出ないと辰也が入って来ちゃう。
「ん」
温泉から出ようとすると、肩に何かくすぐったいような、不思議な感触が。
なんだろう、そう思って見てみるとそこにはずいぶんと大きな、蜘蛛みたいな、蚊みたいな、あめんぼみたいな。
よくわからないけど、とにかく大きな、虫。
虫が、私の肩に。
虫。
「キャーッ!!」
「どうしたの!?」
泣き声に近い叫び声をあげると、辰也が慌てた顔で引き戸を開ける。
「辰也!」
「?」
「むし、変な虫が!」
半泣きになりながら辰也に抱き着く。
私は秋田生まれの秋田育ち。
それなりに虫には耐性があるけど、さっきの虫は生まれて初めて見る。
その上、やたら大きい。それが肩に落ちてきた。
なんかもう、無理。
「可愛い」
「そうじゃなくて!」
「こんな大胆な誘い方するなんて意外だ」
辰也にぎゅっと抱きしめられて、ハッとする。
私、裸なんだった…!
お風呂に入ってたから当たり前なんだけど、混乱していたせいで頭から抜けていた。
そんな状態で辰也に抱き着いて、これは、間違いなく、危ない。
「ち、ちが、ちょっと待って」
「無理」
「…っ」
慌てる私を抑え込んで、辰也は私にキスをする。
抵抗してみても無駄。
辰也は完全にその気だ。
「真っ赤だ」
「…っ」
「恥ずかしいの?」
「は、恥ずかしいよ…っ」
辰也の前で裸になったことは、まあその、何回もあるけど。
今までとは全然違う。
ベッドの上でも恥ずかしいのに、本当に顔から火が出そうだ…!
「今まで何度も見てきたのに」
「あ…っ」
辰也は立ったまま私の胸をぎゅっと掴む。
声が漏らすと、辰也は楽しそうに笑う。
辰也はいつも、私が恥ずかしそうにするとそうやって笑うけど、今はいつもより楽しそうだ。
「や、あっ、あんまり見ないで…っ」
「無理」
「ん、やあ…っ」
「せっかくよく見えるのに」
辰也は胸の先端を吸い付く。
頭がぼーっとしてくる。
「…っ」
風が吹いて濡れた体がひんやりする。
思わず体を震わす。
「あっ、はあ…っ」
「寒い?」
「え?あっ!」
「濡れたまま風に当たると寒いか」
じゃあ、と言って辰也は手早く服を脱いでいく。
脱ぎ終えるとひょいと私を持ち上げた。
「ひゃっ!?」
「せっかくだから、一緒に入ろう」
「…っ」
そう言うと辰也は私を抱えたまま湯船に入る。
辰也は心底嬉しそうな顔だ。
「た、辰也…」
「いいな、一緒にお風呂」
「……っ」
「よく見える」
「ば、バカ…っ」
辰也は私を後ろから抱える形にすると、ぐっと私の足を開かせる。
秘部に指を這わせれば、すでに濡れそぼっているのがわかる。
「もうぐしょぐしょだ」
「…っ」
「お湯じゃないよね。恥ずかしいって言ってたけど」
「あっ、やあ…っ」
「は恥ずかしい方が好きみたいだ」
辰也の指が私の中に入ってくる。
なんの抵抗もなく、あっさりと。
「ちが…っ」
「違わないだろ?」
「あ、やだっ!」
辰也は自分の足と手を使って器用に私の足を開かせる。
恥ずかしい箇所が露わになって、顔が熱くなる。
「ほら、また濡れてきた」
「…っ、違うの、やあ…っ」
「もうこんなになってるのに」
「あっ、ああ、やっ…」
辰也の指が私の中をかき回す。
快感に耐えられなくて、辰也の腕をぎゅっと握った。
「あ、辰也…っ、あっ」
「ん、もっと?」
「あっ!?やあ…っ、ちが、違うの…っ」
「さっきからそればっかりだ」
「あっ、ああ…っ!」
辰也は少し怒ったような口調になる。
それに伴って、指の動きは激しくなって、もう片方の手で胸の先端を弄られる。
快感で頭がいっぱいになる。
だけど、あと少しのところで、足りない。
「た、辰也…、あっ!」
「ん?」
「これ、やだ、やあ…っ、ちゃんと、して…」
「何を?」
「…っ」
「このままだとのぼせちゃうよ」
辰也は私の首筋に痕を残す。
楽しそうな顔だ。
「あっ、あ…辰也…っ」
「気持ちいい?」
「いい、気持ちいいから…っ」
「うん」
「もっと、気持ちよくしてほしいの…っ」
後ろを振り向いて懇願すると、唇を塞がれる。
頭がおかしくなりそうな、熱いキス。
ボーっとしてるのはのぼせてしまったからなのか、それとも。
「あっ、ああ…!」
「…」
辰也は後ろから抱きしめたまま私の腰を浮かすと、そのままゆっくり自身を挿入する。
ゾクゾクと全身が快感を駆け巡る。
「あっ、お湯入ってきちゃ…っ」
「…じゃあ、やめる?」
「…意地悪…っ!」
「どうする?」
「あっ、や、やめないで…っ」
ぎゅっと辰也の腕を抱いてそう言う。
辰也は私の腰を掴むと一気に動きを激しくさせる。
「あっ!や、辰也…っ、あっ!」
「、気持ちいい?」
「ん、いい、気持ちいの…っ」
「オレも、の中気持ちいいよ」
辰也とキスをする。
気持ちいい。
幸せで、気持ち良くて、このまま死んでしまうんじゃないか。
「あっ、あ、辰也、すき…っ」
「やっと素直になった」
「あっ、あ、辰也…っ」
「…」
耳元で名前を呼ばれただけで、体が反応してしまう。
限界が、そこまで来ている。
「辰也、あっ、ああ…っ!」
「、好きだよ」
「ん、っ、あっ、イく…っ」
「…っ…」
*
「はあ…」
お風呂から上がって、二人で浴衣に着替える。
温泉って疲れをとるのにいいんじゃなかったっけ…。
「あ、。ダメだよ」
「?なにが?」
体を拭いて下着を着ようとしていると(やっぱり恥ずかしいので私は辰也に背を向けている)
辰也が突然ダメだと言う。
なんのことだろう。
「浴衣のときは下着着ちゃダメなんだよ」
「!!」
な、なにいってるの…!?
「た、辰也、それ誰から聞いたの!?」
「福井さん」
「…!」
ふ、福井先輩…!
秋田に帰ったら怒ろう…と思ったけど、まさか「辰也に浴衣のときは下着着ちゃいけないって教えたでしょう!?」とは言えない。
…福井先輩め…。
「そ、それはえっと…実践してない人も多いし」
「ダメだよ、はい」
「わーー!!」
辰也はそう言うと私の手から下着を取って行ってしまう。
や、やめて!なんかいろんな意味で恥ずかしい!
「わかった!わかったから!返して!」
「はい」
「……」
ほ、本当に下着なしで浴衣着なきゃいけないの…?
……辰也のバカ……。
「あ」
半泣きになりながら浴衣を着ると、辰也が浴衣に悪戦苦闘しているのが見えた。
「辰也、着れないの?」
「よくわからないや。着たことないし」
そっか。辰也は浴衣なんか着たことないのか…。
「こっち、右腕通して」
「ん」
そう言って辰也が浴衣を着るのを手伝う。
なんだか、さっきまでと違って、…可愛いかも。
「はい、着れた」
「ありがとう」
初めて着る浴衣に辰也はご機嫌だ。
「いいね、浴衣。夏祭りの時に見たのとはまた違う」
「旅館のは寝る用みたいなものだからね」
辰也が嬉しそうで、私も少し嬉しくなる。
口に出したら怒られるかもしれないけど、こういうときの辰也は可愛いな。
「浴衣もそそるよね」
「え」
そう思っていたのに、私の笑顔は一瞬でフリーズした。
「ちょ、あの、氷室さん」
「大丈夫だよ、もう着方覚えたから」
「え、あの、ま、待って!」
制止してみてももう遅い。
いつの間にか私は辰也の腕の中だ。
「た、辰也」
「疲れたらまた温泉入ろうか」
「…っ」
ああ、絶対、部活するより温泉の方が疲れてる…。
温泉に行こう
13.10.28
確か去年から言ってたはずの温泉旅行ネタ
約一年を経てようやく書けました…
氷室は温泉好きそうですね
氷室とまったく疲れがとれないどころか余計に疲れる温泉旅行行きたいです
感想もらえるとやる気出ます!
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