※大学生設定です



5限の終わりを知らせるチャイムが鳴る。私の取っている授業はすべて終了。
今日は辰也が私の部屋に来て、一緒に夕飯を食べる約束だ。
辰也は部活があると言っていたはず。
いつ頃うちに来れそうかラインを送っておこう。

「あれ」

思いのほか早く返信が来る。
部活中は携帯見られないだろうし、もう終わったのだろうか。

『ごめん、今日は行けない 風邪引いちゃって』

予想外の返答に、携帯の画面に釘付けになる。
辰也が風邪…!?
思わず電話をかけようとしてしまったけど思いとどまった。
風邪のときに耳元で声が聞こえるのは気分がよくなさそうだ。
私は再び辰也にラインを送った。

「病院行った?」
『一応』
「ご飯作りに行くよ」
『大丈夫 うつっちゃうよ』

辰也ならそう言うと思った。
私は素早く携帯の画面に指を滑らせた。

「辰也がどうしても来てほしくないって言うなら行かないけど、こういうときは甘えてほしいです」

そう送信すると、少し間を置いて辰也から返信が来た。

『ありがとう』
『じゃあ、ご飯だけいいかな』

辰也の返信に笑みがこぼれる。
よかった。

「もちろん。今から行くね」

そう送って、辰也の部屋に向かうことにした。





辰也の部屋の前に着いた。
さっき「あと五分くらいで着くよ」と送っておいたので、特にインターホンは押さずに合鍵を使って部屋に入った。

「お邪魔します」

辰也の部屋は1Kだ。
玄関のすぐそこにキッチンがあって、その先のドアに1部屋。
辰也はそこで眠っているはずだ。

「…?」

ドアを開けると、ベッドに寝ていた辰也が起き上がろうとするのが目に入った。

「起きなくていいよ」

慌てて駆け寄って、上半身を起こそうとする辰也をベッドに寝かせた。

「熱は?」

言いながら辰也の額に手を当てる。
熱い。

「…8度くらい」
「そっか…ちょっと待ってて」

辰也の部屋のキッチンを借りて、冷やしたタオルを作る。
額に触れさせるだけでもだいぶ楽になるはずだ。

「はい」
「……」

辰也の額にタオルを乗せると、辰也は目を閉じた。
本当につらそうだ。こっちまで苦しくなってくる。

「ご飯、食べれる?」
「…多分」
「食欲ないだろうけど、ちゃんと食べてね。キッチン借りるよ」

そう言って再びキッチンへ。
風邪のときはやっぱり卵粥だろう。
来る途中に買ってきた材料を袋から取り出した。





「あれ…」

お粥が出来たのでキッチンから部屋に入ると、辰也は目を瞑っている。
眠ってしまったのならご飯は後にしようか、そう思ったら辰也は目を開けた。

「起こしちゃった?」
「いや…」
「じゃあ、卵粥作ったんだけど、食べれる?」
「うん」

辰也は重そうに頭を上げる。
辰也の口元にレンゲで卵粥を持って行った。

「はい」
「……ん」

辰也はお粥を口に含むと、ゆっくり咀嚼する。
飲み込んだのを確認して、もう一口。

「…熱くない?」
「ん、平気」

辰也の眼はとろんとしている。
ゆっくり食事する姿も、普段では見られない。
不謹慎だとは思うけど、ちょっと可愛いなと思ってしまう。

「…ごめん、もう…」
「うん。じゃ、薬飲もう」

思ってしまうけど、やっぱり早く治してほしい。
いつもはたくさん食べる辰也が、いつもの半分以下しか食べない姿を見てそう思う。

「薬、これだよね」
「うん」
「はい。お湯だよ」

カップにぬるま湯を入れて薬と一緒に渡した。
辰也はちょっと嫌そうな顔をする。

「…飲まなきゃだめだよ?」
「わかってる」

薬を前にして不機嫌な顔をする辰也。
ちょっと子供っぽいんだから。

「……」

辰也は苦い顔をしながら薬を飲み終える。
よし。これで後はゆっくり寝れば大丈夫だろう。

「…、ご飯は?」
「私?さっきの卵粥と、あとサラダとから揚げ買ってきたから」

ここで料理すると、体調の悪い辰也には匂いがつらいだろうと思って卵粥以外は買ってきた。

「心配してくれてありがとね。大丈夫」
「…、遅くならないうちに帰ったほうが」
「帰らないよ?今日は泊まっていくから」

辰也が風邪を引いたと聞いた時からそのつもりだ。
辰也の部屋には何度も泊まっているからトラベルセットも置いてあるし、簡単な着替えは持ってきた。
それなのに、辰也は目を見開いて起き上がる。

「ダメだよ、うつるかも」
「大丈夫だって」
「でも」
「辰也だって私が風邪ひいたときうちに泊まったじゃない」

前に私が風邪を引いたとき、辰也は私の部屋に泊まって至れり尽くせり世話をしてくれた。
体調が悪いときは心細いもので、あのとき本当にうれしかった。
今度は私の番だ。

「それとは違うだろ」
「違わないよ。今日は絶対泊まります」
「…じゃあベッド空けるから」
「もう!病人からベッドは取りません!」

無理矢理辰也の体を押してベッドに寝かせる。
本当に強情なんだから!

「ねえ辰也、私のこと思って言ってくれてるのはわかるよ。でもね、そう思うなら私の言うこと聞いてほしいの」

まだ渋い顔をしている辰也に優しい声で聞いてみる。
ちょっとずるいことをしているなと自分でも思う。
辰也はこういえば私のお願いを聞いてくれると、私はわかっているから。

「…
「ね」
「…うん。ごめんね」

辰也は私に触れようと手を伸ばす。
だけど、寸前で止めてしまう。

「…辰也?」
「抱きしめたい」

ストレートに言われて、少し頬が赤くなる。
辰也のほうに体を寄せようとしたら、目の前に手のひらを出された。

「うつっちゃうから、治ったら」

そんなこと気にしなくていいのに。
そう思ったけど、きっとこれは辰也にとって譲れないラインなのだろう。

「治ったら、ね」

そう言って、私は辰也の手を握った。
私も早く辰也に抱きしめてもらいたい。キスがしたい。
何より、辰也の辛そうな姿は見たくない。早く元気になってほしい。

「……いいな」
「?」
「安心する」

辰也は小さな声でそう言うと、目を細めた。
握った辰也の手を自分の頬に寄せる。

「…
「うん」
「どこにも行かないでね」

辰也の声は弱々しい。
思わず強く手を握った。

「行かないよ。辰也が眠った後も、元気になった後も、ずっとずっと、私は辰也の傍にいるから」

そう言うと、辰也は安心したような瞳を見せて、眠りについた。







「…ん」

自然と目が覚めて体を起こす。
時刻は8時。
今日は土曜だし、辰也も部活はないって言ってたからもう少し寝ても大丈夫ではあるけど、昨日は早く寝たので目が冴えてしまう。

「…?」

辰也も起きたようだ。
おはよう、と言いつつ辰也の額に手を当てた。

「あ、熱下がったかな?体温計は…」

ベッドサイドにある体温計に手を伸ばそうとするしたけど、それは辰也によって阻止された。

「わっ!?」
「元気になったよ。ありがとう」

辰也は私をぎゅっと抱きしめると、何度もキスを落とす。
昨日の分を取り返すように。

「本当に大丈夫?」
「うん。と早くこうしたかったから、頑張ったよ」

辰也は嬉しそうに、私の頭に頬を摺り寄せる。
頑張ったって、何をだろう…ってちょっと思ったけど、辰也が笑っているのでどうでもよくなる。

「うん。よかった」
「昨日は本当にありがとう」

よしよしと頭を撫でる。
辰也は本当に嬉しそうだ。

「元気になったから、今日はずっと一緒にいよう」

辰也にそう言われて、昨日みたいにぎゅっと手を握った。

「うん」

どこにも行かないよ。私はずっと辰也の傍にいるよ。











on your side
14.10.15

タイトルはHappy Helloのアコさんに考えていただきました(*´▽`*)
ありがとうございました!





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