11月某日。
陽泉バスケ部のレギュラー陣は学校近くの公園へと向かっていた。

この間、学校の授業の一環として奉仕活動があったけど、その日は生憎WC予選当日。
当然ベンチ入りメンバーは奉仕活動に参加できず、こうやって後日別の奉仕活動をすることになったのだ。

「雪像作りって、大変そうですね」

そう、私たちがすることは近くの公園で雪像作り。
私もWC予選で奉仕活動が出来なかったから今日一緒に公園へ向かっているんだけど、雪像作りって力仕事だし、私がいても力になれるんだろうか。
バスケ部はみんな当然力持ちだし、私、逆に邪魔になる気すらしてるんだけど…。

「いいんだよ、には他のことやってもらうから」
「?」

福井先輩はちょっと苦い顔をしながらそう言ってくる。
他のことって…。





「ねーねー、おねえちゃん、おままごとしようよ」
「ねえ、かくれんぼしよう!」
「ねー、なんであのおにいちゃんたちあんなにおおきいの?」

私の周りにわらわらと群がる子供たち。
福井先輩の言っていた「やってほしいこと」ってこれか…!
どうやら、近所の保育園の子供たちが公園に遊びに来ているらしい。
去年もそうだったらしく、岡村先輩や福井先輩はそれを憂いていたようだ。
で、みんなの雪像作りの邪魔にならないよう、子供たちの気を引いてほしいとのことだけど、この人数、全員の相手をできるはずもない。

「えーい!」
「わっ!?」
「なーんだ、スパッツか」

生意気そうな男の子に、スカートをめくられた。
か、監督が「スパッツ履いてけよ」って言ってたけど、このことか…。
確かにこの時期の子たちってスカートめくり好きだよね…。
自分がこの年代だった頃のことを思い出す。

、大丈夫?」
「うん、なんとか」

辰也が心配そうな表情で話しかけてくる。
確かに子供たちのパワーに押されそうだけど、子供たちはみんな可愛い。

「おねえちゃんおねえちゃん、おままごとやろー」
「うん、いいよ。じゃあ辰也、頑張ってね」

ちょっとおしゃれな女の子に手を引っ張られ、そう誘われる。
おままごと、懐かしいなあ。

「おねえちゃんはこどもね!わたし、おかあさん」
「うん」
「おとうさんはね…」

女の子はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「おとうさんは、おにいちゃんがいい」
「オレ?」
「うん!」

女の子は辰也の服の袖を引っ張って、辰也をキラキラして目で見つめる。
…さすがというか、なんというか。

「ごめんね、お兄さんはやらなきゃいけないことがあるんだ」
「えー…」
「また今度ね」

辰也は座って女の子と目線を合わせて、女の子の頭を撫でながらそう言う。

「こんどね、やくそくだよ!」
「うん」
「ゆびきり!」

女の子は小指を出して、辰也と指切りする。
なんか、微笑ましいな。

辰也はもう一度女の子の頭を撫でると、雪像を作るみんなのものとへと戻って行った。

「どうする?おままごとやる?」
「うーん…おとうさんいないし…」
「みきちゃーん、ねえ、こっちでおみせやさんごっこしよー」
「あ、らんちゃん、うん、やるー!」

みきちゃんはらんちゃんという子に誘われて、嬉しそうにらんちゃんの元へ向かっていく。
遊び相手が見つかって、よかった。

「わっ!」
「わあっ」

みきちゃんを見送っていると、足元に男の子がぶつかってきた。

「いたい〜」
「大丈夫?」

男の子はぶつかった衝撃でしりもちをついてしまったようだ。
少し泣きそうな顔をしている。

「痛い?」
「うん…」
「そっか…じゃあね、痛いの痛いの飛んでけ〜」

男の子のおしりを撫でながらそう言ってみる。
小さいころはお母さんや幼稚園の先生にこうやってもらったなあ、と思い出しながら。

「とんでった!」
「そう?よかった」
「うん。おねえちゃん、ありがとう!」
「どうしたしまして。ちゃんと前見て歩くんだよ」
「うん!」

男の子はにっこり笑って、元気よく走り出して行った。

バスケ部のほう順調みたいだ。
みんなわいわいがやがや、雪像作りに励んでいる。

「……」

そう思っていた矢先、辰也が女の子二人に手を引かれて皆の前を横切って行く。
またしてもおままごとに誘われているようだ。

「氷室はすげーな」
「福井先輩」
「幼児にまでモテんのかよ。ちょっとはゴリラに分けてやれって」
「ふふ」
「おーおー、彼女様は彼氏がモテモテでも余裕だね」
「い、いくらなんでもあんな小っちゃい子相手に妬きませんよ」

同年代や年上のお姉さんならともかく、さすがに4歳や5歳くらいの女の子には妬きません…。
部員たちもなんだかんだ言いながら楽しんで見てるみたいだ。

「お前ら、ほどほどにしとけよ、雪像つくる時間なくなるぞ」
「そうですね」

岡村先輩をからかい続ける部員たちに福井先輩が制止の声を掛けると、後ろから辰也が突如現れる。

「おまえ、いつの間に!?」
「幼女はどうしたアルか!?」
「なかなか手を放してもらえなかったので、ちょっと非常手段に出ました」

非常手段!?
そう思ってさっき女の子たちがいた方を慌ててみると、女の子たちは呆けた顔で顔を赤くさせている。

「…なにをしたんじゃ?」

そう聞いたのは岡村先輩。
だけど、私も聞きたい。

「それは秘密です」

辰也はにっこり笑う。
な、なにしたの、この人…。

「…辰也」
「ん?」
「…なにしたの?」
「大したことじゃないよ」
「……」

訝しげな瞳で辰也を見つめる。
…辰也の「大したことじゃない」って、大体「大したこと」だと思う…。

にいつもしてることのほうがすごいことだと思うけど」
「え」
「それに比べれば全然大したことじゃないよ。なんなら今からに」
「ややややらなくていい!ていうかちょっと黙って!」

なんかこのままだととんでもないことを言ったりやったりしそうな気がする…!
慌てて辰也を制止する。

「そう?」
「う、うん」
「そっか、残念」

ああ、もう、この人は、本当につかめない人だ…。

私がため息を吐くと、辰也は敦の姿を探しに公園の奥へと消えていった。
それとちょうど入れ替わるように、保育園の先生たちが慌てた様子で走って来る。

「あっちゃーーん!」
「?」

先生たちは大きな声で子供の名前を呼んでいる。

「どうしたんですか?」
「ああ、すいません。実は園児が一人いなくなっちゃって…」
「え?!」

それは一大事だ。
公園の外は道路もあるし、何か事故でもあったら…。

「あっちゃんって、どんな子なんですか?」
「え?」
「オレたちも探すの手伝いますよ」

保育園の先生との会話に入ってきたのは福井先輩だ。

「いいんですか?」
「そりゃ、そんなの放っとけませんし」
「ありがとうございます!」

福井先輩と一緒になって「あっちゃん」の特徴を聞く。
先生たちはあっちゃんを探したり、だけど他の子供たちも見なくてはいけないから本当に大変そうだ。

「わかりました。部の連中にも伝えてきますから」
「ありがとうございます!」

先生の話を聞いて、部の皆のところへ。

「おねえちゃん!」

…行こうとしたけど、男の子に引き止められてしまう。

「あ…どうしたの?」
「ね、あそぼ」
「う、うん、でも」
「遊んでやれよ、他の子供たちの相手もしなきゃなんねーんだし」
「…そうですね」

こんなときに遊ぶのは…と思ったけど、子供たちにとっては一人の子がいなくなったことが大変なこととはわからないだろうし、
誰か子供を見る人だって必要だし、私はそっちに回ろう。

「うん。何して遊ぼうか?」
「ひーろーごっこ!おねえちゃんはとわわ…とわら?」
「とらわれ?」
「それ!とらわれのひろいん!」
「わ、ヒロインだ」

ふふ、と笑って見せたけど、やっぱりあっちゃんが心配だ。
大丈夫かな、そう思いつつヒーローごっこを始めた。





私が子供たちとヒーローごっこをしている間に、あっちゃんは見つかった。
見つかったと言うか、敦と一緒にいたようで、辰也が敦とあっちゃんを連れて戻ってきたのだ。

本当に良かった。
…そう言いたいところだけど、そうも言えないわけがある。

「すげー無残」

敦がそう言うように、バスケ部のみんなが作っていた雪像はめちゃくちゃになっている。
どうやら、雪像の下に黒いものが見えたらしく、それをあっちゃんの服だと勘違いして、みんなが慌てて雪像を壊したとかなんとか。
ちなみに雪像の下にあった黒いものは敦のお菓子の袋だったらしい。

そして、みんなの頭に浮かんだ疑問。
恐ろしくて口に出せない疑問。

…単位、どうなるんだろう…。


「なにをしてるんだ、おまえら」

慌てる私たちの元に監督がやってくる。
こ、これはまずい…。

「雪像はどうした?今日作るんだったろう?おまえら、WCに行く気はあるのか…?」
「監督…!」

監督の冷たい声が響く。みんな真っ青だ。
主将が立ち上がる。今の状況の説明をしようとしてくれるようだ。

「姐さ〜〜〜〜〜ん!!」

主将が口を開く前に、監督の元へ飛んできたのは保育園の先生たちだ。
あ、姐さん…!?





「そういうことだったのか」
「は、はい…」

保育園の先生から説明を受けて、監督は少し柔らかい表情になる。

「そんな事情なら仕方ない面もある。学校側に掛け合ってみよう」
「私たちも説明に行きます!」

とりあえず、今回雪像が作れなかったことは園児を探すのを手伝ってくれていたからだと保育園の先生方が監督に説明してくれた。
おかげで、単位はどうにかなりそうだ。

「とりあえず、今日はもう遅いから撤収だ。お前ら、大丈夫か?」
「はい」

事情を飲み込んでか、監督の言葉がちょっと優しい。
みんなも立ちあがって、帰り支度を進める。

私も帰ろう。
子供たちとお別れは、ちょっと寂しいな。
少しの間だけど、遊んだ子たちだ。

「ねえねえ、おねえちゃん」
「?」

鞄の中身を見て忘れ物がないか確認していると、服の裾を誰かが引っ張る。
そこには、さっき転んだ男の子が。

「どうしたの?えっと…」
「?」
「あ、名前は?」
「けんた」
「けんたくん、どうしたの?」
「あのね」
「うん」

しゃがんで話しかけると、少し下を向いてしまう。
どうしたんだろう。

「おねえちゃん」
「うん」
「…ぼく、おっきくなったら、おねえちゃんとけっこんする!」

思わぬ言葉に目が点になる。
け、けっこん…?

「え?け、結婚?」
「うん!おねえちゃん、だいすき!」
「あ、ありがとう…」

漫画やドラマでよくあるやつだ。実際、幼稚園の時、友達も同じことを幼稚園の先生に言っていた。
でも、実際自分が言われてみると、どう答えたらいいかわからない。

「へえ」

固まっていると、上から冷たい声が降ってくる。
驚いていると、辰也が私の横にしゃがんできた。

と結婚したいの?」
「うん!」
「辰也!」

辰也の表情は怖い。笑ってるけど、目が笑ってない。
思わず辰也を肘で小突く。

「相手は小っちゃい子だからね!?」
「わかってるよ」

小声でそう言っているけど、わかっているとは思えない。
…こ、この人は…。

「ぼく、はやくおっきくなるよ!おねえちゃんとけっこんするんだ」
「え、えーと…」
「だめだよ〜」

そう言って突然会話に入ってきたのは、さっき辰也とおままごとしようとしていたみきちゃんだ。

「どうして?」
「おねえちゃんは、おにいちゃんがカレシなんでしょ?」
「え!?」

みきちゃんが放った一言に顔が赤くなる。
い、いや、その通りなんだけど…。

「よくわかったね」
「わかるよ、らぶらぶだもん!ピンクってかんじ!」

さ、最近の子はおませさんというか、なんというか…。
私、幼稚園の時こんなこと言ってたっけ…。

「だからけっこんできないよ」
「……」

みきちゃんの言葉にけんたくんは泣きそうになる。
あ、ど、どうしよう。

「…おねえちゃん、おにいちゃんとけっこんするの?」
「え!?」
「…ぼく、がんばる」
「え?」

けんたくんは鼻水をすすると、きっと前を向いた。

「ぼく、おにいちゃんより、かっこいいのになる!それで、おねえちゃんとけっこんする!」

ま、まさかの展開…。
今時の子って、本当大人っぽい…。

「負けないよ?」
「ぼくも!」

辰也とけんたくんは拳をこつんと合わせる。
なんか、妙な友情が生まれているような…。

「おねえちゃん、まっててね!」
「う、うん」

けんたくんはきりっとした表情でそう言ってくる。
…けんたくん、すごく、いい男になりそう…。





「今日は疲れたなー」

そう言いながらみんなで学校まで戻る。
本当、盛り沢山な一日でした…。

はプロポーズされるし」
「も、もうその話はいいです」
ちんモッテモテ〜」
「相手は園児だから…」
「あの頃って保育園の先生とか憧れんだよな」

福井先輩がそう呟く。
…今日は大変だったな。
でも、楽しかった。

、ご機嫌?」
「うん。小っちゃい子と遊ぶの、大変だけど、楽しかったなあって」
「そっか。小さい子、好き?」
「うん、そうなのかも」

今まであまり意識したことなかったけど、子供結構好きかも。
もちろん、今回みたいに楽しいだけじゃなくて大変なこともあるだろうけど…。

「そっか。じゃ、オレ頑張るね」

辰也の突然の言葉に、私の体は硬直する。

「が、頑張る…?」
「うん。子供、欲しいんだろ?オレもとの子供欲しいし」
「そ、そんな話じゃなかったよ!?それに前も言ってたけど、が、頑張るって、何を」
「何をって、もちろんセ」
「わーーーー!!!」

思わず辰也の口を両手でおさえる。
ななななに言おうとしてるのこの人…!

「頑張らなくていい!頑張らなくていいから!!」
「そう?」
「バカ!!」





「あいつら、元気じゃの」
「相変わらずアル」
「けんたくん、かわいそう」
「もう突っ込むのも疲れたわ」











大きくなったら
13.10.08

室ちん祭り第二弾
小説版第三弾のネタです
けんたくんはいい男になるでしょう…







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