「うわぁ…」

委員会が終わって、下駄箱で靴を出してさあ帰ろうというとき、外から大きな水音がした。
恐る恐る外を見てみてれば案の定雨。
しかも、パラパラ降る可愛い雨ではなくて、バケツをひっくり返したような、土砂降りだ。
外に出るまであと一歩というところで止まって雨の様子を確認する。
何これ、としか言いようがないような雨。もう溜め息しか出てこない。
こんな日に限って置き傘を持っていない。昨日も帰りに急に雨が降ったので持って帰ってしまったのだ。
朝、玄関で開いて干してきたけどお母さん入れてくれたかなあ。こんな雨に濡れてしまったらまた干さなくちゃいけない。いや、今はそんなこと考えてる場合じゃなくて。

「どうすんのよこれ…」
「ホンマやなあ」
「えっ!?」

うわ、びっくりした。独り言のつもりだったのに、返事をされるなんて。
返事をしたのは同じクラスの白石。部活で遅くなったのかなあ。
私の「どうしよう」に相槌を打ったことから考えると白石も多分傘を持ってない。でも一応、聞くだけ聞こう。

「傘、持ってる?」
「生憎、昨日持って帰ってしもてなあ」
「だよね…私も一緒」
「まあ、こんなん通り雨やろ」
「そだね、ちょっと待ってればすぐ止むかな」

と、言ったはいいもののちょっと待てば、ってどのくらいだろう。
白石とは確かにクラスメイトだ。席も近い。
だけど話したことなんてほとんどなくて、あっても「先生が呼んでたよ」とか「あ、その消しゴムとって」とか、そういう事務的というか必要最低限の会話しかしたことはない。
別に白石のことが嫌いなわけでもないし、避けてるわけでもなく、ただ単に話すこともなければ話す機会もない。ただ、それだけ。

、こない遅くまでどないしたん?」
「あ、委員会、長引いちゃって。白石は部活?」
「部活となあ…まあいろいろあってん。他の奴らはもう帰ってんで」
「へぇ…そういえば部長だっけ。大変だね」
「まあ、それなりにな」
「ふーん……」
「……」

やばいな、まだ雨は全く止む気配がないのに早くも話が終わってしまった。
こういうとき話のネタのない自分に嫌気がさす。
友だちと話すときだって基本的に聞き役だし…こういうときって何話せばいいの?何で学校でこういうこと教えてくれないんだろう。
あんまり喋らない男子と二人っきりになっても平気なほど私は芯が強いわけではない。
まずい、何だかもじもじしてる気がする、私。
白石はどうなんだろう、と思いちらっと白石のほうを見る。すると、白石はずっとこっちを見ていたのかたまたま今見たのかわからなけど、目が合ってしまった。
わ、もともと思ってたけど、改めて見ると綺麗な顔だ。
すごくドキドキして、今すぐ目を逸らさないと心臓が飛び出しそうだけど、何だか金縛りにでもあったように逸らせない。

「何か、おもろいなあ」
「えっ」

白石の言葉ではっと我に帰って、慌てて下を向いた。
下を見ると水溜りが出来ていて、私の戸惑った顔を映した。
まずい、なあ。白石が人気あるのは知ってたけど、まさか私までこんな想いになるなんて、思わなかった。ドキドキ、する。

「な、何が面白いの?」
「何や、と俺で、大きな相合傘してるみたいやなぁって。ほら、この屋根」
「なっ…」

にを言い出すんだこの男は!開いた口が塞がらないというか、もうびっくりしてしまって何と言っていいのかわからない。
この屋根って、屋根って、多分昇降口の大きさにだけある屋根のことだろうけど、いや昇降口の大きさだけと言っても昇降口って十分大きいから相合傘って、正直無理がある気がするんだけど、

「し、白石、何言って、」
「ホンマに思っただけやし」
「いや、でも、そういうの、変に誤解されるんじゃない?」

だって私今誤解してしまいそうだ。今さっき白石を意識し始めた私がこんなになるなら、そりゃずーっと白石のこと想ってきた人たちなんて失神してるんじゃないだろうか。
そんなことをぐるぐる考えていると、雨は段々止んできて、白石は一歩踏み出して外に出て一言言った。

「別にになら誤解されても構へんで?」

ていうか誤解やないし、って言って白石は走り去っていってしまった。
雨は一回弱まるとすぐ止んでしまって、もう太陽が見えてきている。
誤解じゃないって、何で、なんで?何だか今日は白石にドキドキさせられっぱなしだ。
ていうか、誤解じゃないって、誤解じゃないって、どうしよう私一瞬にして白石に恋をしてしまったようです。










堕 ち る 、 恋

07.10.06












恋をするというより恋に堕ちるイメージで
そりゃ白石に口説かれたら堕ちるって