久しぶりに阿部と出掛けた休日、駅のエスカレーターに乗ったら「階段上んねーの?」と言われた。

「学校行くときとかはちゃんと階段使ってるよ」
「じゃあ何で今使わないんだよ」
「だって今ヒール履いてんだもん、怖いじゃん」
「?何が?」

そっか、当たり前だけど阿部はヒールなんて履いたことないだろうからわらかないんだ。
あのね、こう、階段上ってるとヒールの部分だけ階段に乗れなくて、体重が後ろにいっちゃって、かくってなるときがあるんだよ。その、かくってなるのが落ちそうになりそうで怖いんだよ。
と、説明してみたけどやっぱり阿部はよくわかってないと言った顔だ。確かにこの感覚は実際経験しないとわからないのかもしれない。

「とりあえず、ヒールで階段上るのは怖いの」
「じゃあ何で履くんだよ」

さらに腑に落ちないと言った顔で阿部は私を見る。その疑問はなんとも阿部らしいというか。彼女と出掛けてるって言うのにお洒落しようなんて気のない阿部にはわからないだろうなあ。

「阿部にはわかんないよ」
「あ?」
「女の子はお洒落したいものなの」

阿部と学校以外で一緒にいることなんてほとんどないし、私は学校は絶対制服で行くと決めてる(お姉ちゃんに制服は着れるのは限られてるんだから着ておいたほうがいいと言われた)そんな感じなので、久しぶりに私服で阿部と一緒にいるとなればそりゃお洒落の一つ二つしたくなるのが女心というものだ。

「だからって、本当に落ちたらどーすんだよ」
「いや、怖いってだけで落ちないと思うよ、多分」
「多分って…お前もうヒール履くの禁止な」
「え?何で?」
「何でもだよ」

エスカレーターから降りて、阿部は一人でさっさと歩き出してしまう。え?何?本当に意味わかんないんだけど。

「いいじゃん、彼女が可愛くお洒落するの嬉しくないの?」
「別に」
「…あんたねえ」
「つーか怪我されるほうが困るんだけど」

怪我してもおぶってやんねーぞ、と付け加えて阿部はどんどん進む。阿部は歩くのが早い。私が、歩くの早いよ、と言うまで絶対に私に歩調を合わせることはない。今走って転んでもおぶってくれないのかな。
阿部は冷たい、と最初に話したときから思ってた。どのくらい冷たいかと言うと、バファリンの半分を分けてあげたいと思うほどだ。そのくらい切羽詰ってる。道端で人が倒れてても救急車すら呼ばないんじゃないの?そんな阿部を好きになった私も私だけど。
でも、おぶってくれなくても、歩く早さを私に合わせてくれなくても、怪我させるのが嫌だと思ってくれるのは、それなりに私を大事に思ってくれてるってことだろうか。
今は無理でも、いつか絶対おぶらせてやる。ヒールを鳴らしながらそう誓った。
















ピン・ヒールから愛を込めて。
07.12.11









阿部誕生日おめでとう!
甘いかせめてほのぼの的な感じでやりたかったけど あれ … あべ …