、今日はポッキーの日なんだってね」

部活が終わった後、辰也の家に行くと辰也がココアを私に差し出しながらそう言った。
心なしかとても嬉しそうな顔で。

「そうだね。ほら、1とポッキーって形似てるから」
「うん。だからポッキーあるんだ」

辰也は鞄からポッキーをひと箱取り出した。
一緒に帰ったはずなのにいつの間に買ったんだろう。
疑問に思っていると私の怪訝な表情で察したのか、辰也は「クラスメイトにもらったんだ」と言った。

「一緒に食べよう」
「うん。ありがと」

辰也にお礼を言ってポッキーを一本手に取る。
ポッキー食べるの久しぶりだな。そう思いながらポッキーを口に運ぼうとしたら、辰也がその腕を掴んできた。

「ダメだよ食べちゃ」
「え」

今一緒に食べようって言ったの辰也だよね…?
ぽかんとしていると、辰也は私の手からポッキーを没収する。
一緒に食べようというのは幻聴だったのだろうか。

「はい」
「!」

ポッキーが食べられなくてしゅんとしていると、辰也は先ほど取り上げたポッキーを先の方だけほんの少し私の口に咥えさせた。
そして私が反応する間もなくポッキーの反対側を辰也が咥える。
これは、もしかしなくても。

「た、辰也!」

慌てて辰也の名前を呼ぶと、辰也は笑った。
自分の口からポッキーを外して、辰也は私を抱き寄せる。

の負けだ」
「えっ」
「ポッキーゲームってそういうゲームだろ?」

少し混乱した頭でポッキーゲームのルールを思い出す。
そういえば先に口を離したほうが負けというルールだった。
確かに口を開いた、つまりポッキーから口を離した私が負けということ。

「で、でも私やるなんて一言も言ってない!」

慌ててそう言うと、辰也は目に見えてショックな顔をした。

「…そっか」
「え…」
「…ポッキーゲームって恋人同士ではスタンダードな遊びだっていうから、とやりたかったんだけど…」
「辰也…」
「…が嫌なら仕方ないか…」

辰也はすっかり肩を落としてしまう。
なんだか私が悪者みたいだ。

「…あ、あの辰也」
「……」
「ちょっと恥ずかしかっただけで、別に嫌ってわけじゃないから…」

あんまりにも辰也が可哀想で、小さな声でそう言った。
ちょっと恥ずかしいけど、嫌なわけじゃない。
辰也のこと、好きだから。

!」

辰也は満面の笑みで顔を上げた。
こ、ここまで喜ばれるとは…。

「じゃあやろう」
「う、うん」

辰也は先ほどのポッキーを手に取ると、もう一度私に咥えさせて自分も咥える。
自分から食べるのは恥ずかしくて、なかなか進まない。
一方で辰也はどんどん進んでくる。
もうすぐ私の唇にくっつく。

「…っ」

くっつく瞬間、目を瞑る。
いつもとちょっと違うキスの感触だ。

「…」

目を開けると、嬉しそうな辰也の顔が視界に飛び込んでくる。
そんなにこれがやりたかったのか。

「辰也…」
、まだいっぱいあるよ」
「えっ」

これで終わりかと思ったら、ポッキーの箱を持ち上げてそう言ってくる。
辰也のもらったポッキーは細いタイプのものだ。つまり、たくさんポッキーが入ってるやつ。

「え、全部やるの?!」
「やらないの?」
「だ、だってこんなにたくさん?」
「うん」

なんて嬉しそうな顔だ。こんなにうきうきした辰也の顔は滅多に見られない。

「辰也、あの!」
「ん?」
「あの、普通にキスするんじゃ、ダメかな…?」

楽しそうな辰也には悪いけど、正直ポッキーゲームは恥ずかしい。
しかもゲームを最後までしたらキスするし、私が途中で耐え兼ねて口から離して負けたらどうせ辰也は「負けたからキスね」とか言ってキスさせるに決まってる。
だったら、最初からキスしちゃったほうが恥ずかしくない。
そう思って申し出てみる。

「ダメ」
「え…」
「だってほら」

辰也は言葉の途中でもう一本ポッキーを取り出す。
そのまま再びポッキーゲームだ。
恥ずかしくて体が固まる。そうしているうちに、辰也の唇が私のそれにたどり着く。

「…っ」
「……

辰也は薄く笑って、もう一度口を開く。

「ゲームだと、恥ずかしがるが見られて可愛いんだ」

辰也はにっこり笑ってそう言ってくる。
私は頬を赤くして下を向いた。

「…じゃあ」
「?」
「普通のときの、私は?」

ポッキーゲームの私が恥ずかしがって可愛いというなら、普通にキスした時の私はどうなんだ。
可愛くないとか言われたら死にたくなる。いや、辰也に限ってそんなこと言わないと信じているけど。

「っ!」

辰也は不意に私にキスをする。
辰也はまた、嬉しそうな笑顔だ。

「普通にキスすると、すごく嬉しそうで可愛い」

その言葉に、きゅんと胸が締め付けられた。
思わず辰也の胸に顔を埋めた。

「辰也…」

辰也は私の頭をよしよしと撫でる。
上を見上げると、辰也がおでこをくっつけてきた。

「…どっちにする?」

どっちというのは、普通のキスか、ゲームのキスか。
わざわざ私に選ばせるあたり、辰也は意地悪なのか優しいのか。

「…辰也の好きなほう」

そう呟くと、辰也はもう一度ポッキーを取り出した。
今日はあと何回、キスをすることになるのだろう。













ポッキーゲーム
14.11.11

11月11日はポッキーの日!








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