秋と言えば文化祭。
陽泉高校の文化祭も、ついに明日だ。
うちのクラスは結構張り切った出し物、舞台を借りて演劇をする。
題目は白雪姫のパロディ。
クラスにそういうのが上手い子がいて、うまいことギャグに持って行ってる。
もちろん「フリ」だけど原作通りキスシーンがあったり、実際やるのが楽しみだ。
まあ、私は裏方だけど…。

「これ体育館に運んでくるねー」
「ん、お願い〜」

暗幕を二つ持って、体育館を出る。
明日、うまくいくかなあ…。


「あ、氷室くん」
「体育館だろ?オレも一緒に行くよ」

クラスメイトの氷室くん。
彼も暗幕を持っている。体育館に行くみたいだ。

「こっち持つよ」
「わ、ありがとう」

そう言って氷室くんは私の持っていた暗幕を一つ持ってくる。
なんというか、スマートだなあ。
本当、こういうところも、見た目も、全てが王子様のようなんだけど。

実際クラスの出し物が白雪姫(のパロディ)に決まったときは、クラスの女子ほとんどが王子様役に氷室くんを希望した。
だけど強豪バスケ部の部員の彼にそんな大役を頼めるはずもない。
氷室くんは当日入り口でお客さんを案内する係だ。

…王子様の氷室くん、見たかったなあ…。

「どうしたの?」
「えっ、あ、別に…」

いや、やっぱり嫌だな。
氷室くんが王子様なら、お姫様は私がいい、なんて。
お姫様なんて似合うはずないから絶対やらないけど。
劇でしかもコメディとはいえ、氷室くんが王子様で、ほかの女の子がお姫様。
あまり、ううん、すごく、見たくない。

「楽しみだね、明日」
「うん」
は照明だろ?頑張ってね」
「すっごく緊張してます…」
「はは、大丈夫だよ。コメディだし、何かあっても誤魔化せるって」
「…うん」

体育館まで歩きながらそんな話をする。
照明ってほとんどぶっつけ本番だから、怖いんだよね…。

「おー暗幕サンキュー。準備室置いといて」
「ああ、わかった」

体育館に着くと実行委員の男の子がそう言ってくる。
氷室くんと二人で準備室へ向かった。

「この辺でいいのかな?」
「多分」

小さな準備室には明日の衣装やら小道具やら。
空いてる場所に暗幕を置いた。

「ついに明日だね」
「うん」
「…、お姫様やればよかったのに」
「え?」
「似合うと思うよ」
「いやいやいや!!」

氷室くんはそう言ってくれるけど、お姫様なんて柄じゃない。
本当いいとこ小人です…。

「気付いてないの?」
「な、なにに…」
「今の顔、すごく可愛いってこと」

体中の血液が顔に集まっていくのを感じる。
な、何。何言ってるの、氷室くん。

「おお、なんと美しい姫だろう」
「えっ」
「せめて最後に、別れの口付けを」

氷室くんは劇中の王子様の台詞を言う。
すごくはまってる。
いや、そうじゃなくて。

氷室くんの顔が、だんだん近付いてくる。
え、なに、く、くちづけ!?

「…っ」

ぎゅっと目を瞑る。
氷室くんは優しく頭を撫でた。

「ごめんね、やりすぎた?」
「え…」
「ごめんね」
「え、じょ、冗談!?」

アメリカンジョークとかそういうの!?
真っ赤な顔で叫ぶように言うと、氷室くんは眉を下げた。

「冗談じゃないよ」
「え」
「本気」

その言葉でさらに顔を赤くする。
本気、ということは。

「ねえ、オレだけのお姫様になってくれる?」

なんて台詞をいうんだこの人は。
こんなキザな台詞が似合う高校二年生、きっとほかにはいない。

「はい…」

俯きながら返事をする。
心臓がバクバク言ってる。



氷室くんが私の名前を呼んで、顔を上げさせる。
氷室くんの目は、真剣だ。

「おお、なんと美しい姫だろう」
「…っ」
「せめて最後に、別れの口付けを」

氷室くんの顔が近付く。
私はゆっくり目を閉じた。


優しい感触の後、目を開ければ、微笑んでいる氷室くん。
胸がきゅんと締め付けられる。

「…やっぱり、お姫様はやっちゃダメだな」
「え…」
がお姫様でほかの男が王子様なんて、耐えられる訳ないだろ?」

氷室くんがそう言うので、私は思わず笑う。
同じだ。

「…氷室くんも、王子様やっちゃダメだよ」

眉を下げてそう言うと、氷室くんは笑った。

「オレはだけのものだよ」


目を瞑って、私たちはもう一度キスをした。









my princess
13.11.19

氷室はキザなセリフ吐いてもギャグにならないどころか似合ってしまうのが恐ろしい
ヤキモチ妬き同士お似合いのカップル!





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