幼い頃、両親が好きな食べ物を私に譲ってくれるのが不思議でたまらなかった。
「お父さんもお母さんも、好きなものいっぱい食べたくないのかな」って。
だけど、今ならその理由がわかる。

実家から送られてきたりんごをお皿に切り分けていく。
おいしそうなところ、ちょっと大きく切ったところは辰也のお皿へ。
私もりんごは大好きだけれど、いつもほとんど無意識にこうしてしまっている。
辰也においしいところを食べてもらいたいから。辰也がおいしそうに食べているところを見たいから。
きっと私のお父さんとお母さんも同じだったのだろう。
「大好きな人に喜んでもらいたい」きっとその気持ちでわたしに好きな食べ物を譲ってくれていた。
愛情の種類は違うけれど、わたしも辰也に同じことを思っている。

「辰也、これ送られてきたりんご」
「あ、ありがとう。の家のりんご、おいしいんだ」

辰也は嬉しそうな顔でお皿の上の一番上のりんごをかじる。
甘くておいしいね、と笑う辰也を見ていると、私まで幸せな気持ちになってくる。

「あ、蜜入りのだ」

辰也は蜜の入ったとびきりおいしそうなかけらをフォークで刺すと、「はい」と言って私に差し出してくる。
早く食べてと言わんばかりの表情だ。

一番おいしそうなところ、辰也に食べて欲しかったのだけど。
そう思いながらも、私は口を開けて辰也の差し出すりんごを口に含んだ。

「おいしいね」

そう言うと辰也は嬉しそうに笑う。
きっと辰也も、わたしと同じ気持ち。







りんごをどうぞ
19.04.29










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