お昼休み、部室でのミーティングが終わって教室まで急ぐ。
先生と練習の予定について盛り上がってしまって、気が付いたら始業ギリギリだった。
部室棟から教室まで少し遠いので、本当に急がないと…。

近道だからと体育館の裏を通って行く。
植え込みだらけで通りにくいけど、校庭を突っ切るよりこっちのが早い。
急ぎ足で植え込みの間をすり抜けていく。
さすが私!部活で鍛えた運動神経!

「ぎゃあ!」

…なんて余裕をかましてたら、つたに引っかかって転んだ。

「…いった〜」

すぐに起き上がろうとしたら、右足に強い痛み。
…これは……。

「…っ!」

ダメだ。起き上がれない。
想像以上に悪い方向に痛めてしまったらしい。
ここまで痛いとは…。余裕かましてた10秒前の自分を殴りたい。

これじゃどうやっても授業にはどうやっても間に合わない。
というか起き上がれないし、友達に連絡しよう。
そう思ってポケットから携帯を取り出したら

「ええええ!?」

じゅ、充電が切れてる…!
最悪だ。いくらなんでも1つの授業にいないからって探しに来る人はいないだろう。
ましてやこの道を探しに来る人なんて皆無。
この寒さでここでしばらく過ごせと…。
12月の秋田の寒さでしばらく過ごせと…。

「どうしよう…」

途方に暮れていると後ろから足音が。
天の助け!と思って勢いよく振り向くと、そこには見慣れたクラスメイトの姿が。

「氷室!」
?どうしたんだ?」
「助けてー!」
「!?」

びっくりする氷室に今の状況を説明した。

「なるほど。じゃあとりあえず、保健室…かな」
「ありがとう…!」

氷室の手につかまって、どうにか立ち上がる。
右足にずきっと痛みが走って顔をゆがめる。

「そんなに痛い?」
「え、ああ…うん」

こればっかりはちょっと我慢できるものじゃない。素直に痛みが強いことを伝えた。

「じゃあ、おぶるよ」
「えっ!?」
「だって痛いんだろ?無理して歩いたら悪化するかもしれないし」
「でも、おんぶってちょっと…恥ずかしいというか…」
「恥ずかしいって、そんなこと言ってる場合じゃないと思うけど?」

はい、その通りです…。
ここは氷室に甘えよう…。

「…よろしくお願いします」
「はい、じゃあどうぞ」

氷室の背中に乗りかかる。
おんぶなんて、小学生の頃お父さんにやってもらって以来だ。
ドキドキもするけど、大きな背中に安心する。
ああ、これで凍え死なずに済む…。

「氷室が来てくれてよかった…」
「ははっ、おおげさだな」
「おおげさじゃないよ!あそこに一時間もコートなしでいたら凍死する!」
「じゃあ、オレは命の恩人?」
「そういうことになります!」

私は決してオーバーに言ったつもりじゃないんだけど、氷室はまだ笑ってる。

「私は本気なんだけどなあ」
「ああ、ごめん。まさか自分が誰かの命の恩人になるとは思ってなかったからさ」
「お礼に今度何かおごるよ!」

そう言ったら、氷室はいきなり立ち止まった。

「…?どうしたの?」
「いや、おごりか…なんでもいい?」
「え、なんでもはさすがにちょっと…私の財力の範囲で宜しくお願いしたいところなんですが…」
「オレ、命の恩人だよね?」
「いや、まあ、そうだけど」
「だったら多少は値が張ってもいいんじゃない?」

あ、あれ。なんか妙に意地悪じゃない?
氷室ってこんな人だったっけ…。

「好きなバスケ選手のバッシュがオークション出されてたんだ」
「それ、いくらくらい…?」
「オレがまったく手が出せないくらい」
「それは確実に無理です!」
「おごってくれるんじゃなかった?」
「いや本当感謝はしてますけどないものはどうしても出せないのでどうにか私の財布が寂しくならない程度で手を打てませんか」
「命の恩人に妥協させる気?」
「…確かに命の恩人だけれども!」

なんか本当意地悪なんですけど!
だってないものは出せないじゃないどうしようもないじゃない!

「じゃあ、もう1個の欲しいものでもいい?」
「…それもお高いモノじゃないでしょうね」
「値段はつけられないな」
「値段がつけられないようなものを買えと!?」
「買えって言ってるんじゃないよ。欲しいって言ってるんだ」

…なんだか余計に嫌な予感がするんですけど…。
一体何を欲しがってるんだ…。

「…何が欲しいの?」
「わからない?」
「え?なんか嫌な予感がするだけでモノ自体はさっぱり」
「嫌な予感って言われるとちょっとショックだな」
「…?」

悪い予感は少しなくなったけど、不安は変わらない。
氷室の欲しいモノって、なんだろう。

「オレが欲しいのは、


「え、ええええ!?」
「うわ、暴れないで。落ちる」
「いや、だって、ええ!?どういう意味!?!」
「そのままの意味。で、どっちがいい?」
「どっちって、え、どっち?」
「ないお金を絞り出すか、オレのところに来てくれるか」

そんなの、お金のことがなくたって完全に一択じゃないか。

「…その、ないものは出せませんので」
「理由はそれだけ?」
「…それだけじゃないけど」
「じゃあもう一つの理由も言ってほしいな」
「な、なんか氷室今日やたら意地悪じゃない!?」
「オレはもともとこういう性格だよ」

「嫌いになった?」なんて笑いながら氷室は言った。
嫌いになるわけないのに、なんか聞き方がずるい…。

「まあ、気長に待ってるよ」
「…待っててください」




















2012.5.4

氷室でリクエストもらったときに書いたけどなんか納得いかないでボツにした奴の一つなんですが
ネタ自体は気に入ってたのでちょっと手直ししてアップ
氷室リクエスト時にボツにしたのが相当あるんで直してあげていきたいです