彼氏ができた。15年生きてきて、はじめての彼氏。
彼の名前は虹村修造。3年間同じクラスで委員会が一緒になったり席が近いことが多かったりと、仲もよかった。
好意自体は持たれていると思っていたけれど、恋愛としては私の片思いだと思っていた。
だから虹村から告白されたときは本当に夢かと思った。
「私もずっと好きだった」と答えるのも難しいほどに驚いて、どうしようもなく嬉しかった。
虹村と付き合い始めて、1ヶ月がたった。
初めての彼氏。どうすればいいのか右も左もわからなかったけれど、どうにかこうにか慣れてきた。
と言っても、特に色っぽいことはなく、メールをしたりたまに電話をしたり、時間が合えば二人で一緒に帰ったりするだけだ。
話す内容も付き合う前と変わらない。くだらない雑談がほとんどだ。
恋人同士というより「少し仲のいい男女」レベルだと自覚はあるけれど、この状態が心地いいとも思う。
だってなにしろ初めての彼氏なのだ。このぐらいのテンポじゃないと心臓が爆発してしまいそう。
今日はそんな虹村と一緒に帰る日だ。
虹村の所属するバスケ部は強豪のため、ほぼ毎日部活がある。
けれど週に一回水曜日だけバスケ部は休息を兼ねてミーティングのみの活動になるので、水曜だけ一緒に帰ろうと約束をしているのだ。
虹村のミーティングが終わるのを待って、昇降口で待ち合わせ。
いつも虹村が「待たせたな」って言うから、「そんなに待ってないよ」とわたしは答える。
いつもこれが恋人同士みたいで照れくさい。いや、歴とした恋人同士なんだけど。
「はー……あっちー。なあ、なんか飲み物買っていいか? のど乾いて死にそう」
そう言って虹村は近くの自販機でポカリを買うので、私はサイダーを買った。
公園のベンチに腰掛けて、キャップを開けると炭酸の抜ける音がする。
夏だな、なんて思う。
「あっつ……」
ぱたぱたとシャツを引っ張って扇いでいると、虹村がじっとこちらを見ていることに気づいた。
「どうしたの?」
「いや、別に」
「?」
虹村はふいと視線を逸らすと、右手でペットボトルのキャップをいじる。
回答に疑問を覚えつつも、これ以上追求するほどのことでもない。
もう一度ペットボトルに口を付けた。
「……」
あ、また。また虹村がこちらを見る。
見られるのが嫌なわけではないけれど、人に見られると緊張するし、相手が虹村ならなおさらだ。
「ねえ、虹村……」
「やっぱりなにかあったの?」
そう聞こうと虹村のほうを向いたら、虹村の顔が近づいた。
驚く間もなく、虹村の唇と私のそれが、触れた。
「……っ!?」
かあっと全身の血が頬に集まるのを感じる。多分今頬は真っ赤だ。
目の前の虹村の頬も少し赤みを帯びている。それは暑さではなく、私の同じ感情からくるものだろう。
「え、え…、な、なに、なんで」
「なんでって……しちゃいけねえのかよ」
「い、いや、いけないわけじゃなくて!」
虹村がバツの悪そうな顔をするので、私は慌ててそうではないと声を出す。
「え、ええと、いきなりだったから、ちょっとびっくりして……」
「……」
「い、嫌なわけでは、ないです」
きゅっと膝の上で拳を握る。
驚きすぎて素っ頓狂な声を出してしまったけれど、決して嫌なわけではない。
むしろ、うれしいと、そう思う。
「……そっか」
「う、うん」
「なら、まあ……いいんだけどよ」
「うん」
「……」
「……」
私たちの間に少しだけ沈黙が流れる。
気まずいような、でもどこか居心地のいいような、不思議な感覚だ。
温い風が吹く中で、虹村が沈黙に言葉を落とす。
「……なあ」
「ん?」
「……もう一回、していいか」
「え……っ」
虹村の思わぬ言葉に、また頬が熱くなる。
「なにを」と虹村は言っていないけれど、それは間違いなくキスのことだろう。
駄目なはずがないのだけれど、緊張しすぎて言葉が出ない。
だから私は、虹村の方を向いて、虹村の服の袖をつかんで、ぎゅっと目を閉じた。
三秒後に、唇に先ほどと同じ柔らかい感触が訪れる。
目を開けると、頬を赤らめた虹村の顔。
「……そろそろ帰るか」
「う、うん」
私たちは飲みかけのペットボトルを鞄に入れて、立ち上がる。
つないだ手は、熱かった。
三秒後の魔法
17.08,27
奈央さんリクエストの虹村先輩でした!
お待たせしてすみません…!ありがとうございました!
感想もらえるとやる気出ます!
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