「もう、今日は本当に怒ったから!!」
公道に私の声が響く。
もう、今日という今日は怒ったんだから!
「ごめんね」
「今日は許さない!」
「…」
辰也は申し訳なさそうな顔でそう言うけど、絶対反省していない。
だっていつも謝って来るけど、結局次の日何事もなかったように同じことを繰り返してくる。
今日は騙されないんだから!
「いつも外でああいうことしちゃダメって言ってるのに!」
そう、きっかけはいつものこと。
いつものように手を繋いで一緒に帰っていたら、辰也がいつものように私にキスをしてきた。
私が顔を赤くすれば、辰也はそれを見て嬉しそうな顔をして。
本当、何回もキスをしてきて。
公道のど真ん中で。
少ないけど人もいるのに。
一回ならまだしも何回も。
「もう何度も言ってるのに!」
「ごめん…」
「今日は許さない!」
いつもならここで私が折れて「次にしたら怒るから」なんて言いつつ、次やった時も同じことを言っていたわけだけど。
今回はそうじゃない。
本当に、本当に怒ってるんだ!
「しばらくキス禁止!」
「え?」
「外は当たり前だけど、二人きりでもダメ」
「…え」
「今回は本気だからね!」
「でも」
「絶対ダメ!」
辰也は何か言いたそうにするけど、それを全部遮る。
今日は本当に怒ってるんだから…!
「…どうしても?」
「どうしても!」
「…そっか、わかったよ」
「え」
もうちょっといろいろ言ってくるかと思ったけど、辰也は割とあっさり了承する。
まあ、別にいいんだけど…。
「、ごめんね」
辰也は寂しそうな表情でそう言う。
いや、わかってくれればいいんだけど…。
*
数日後、部室で自主練を終える辰也を待っていると、敦が話しかけてきた。
「ちん、室ちんとケンカしてるの?」
「え?」
「最近イチャイチャしてないから」
「……」
そう、あれから数日、辰也はまったくと言っていいほど私に触れてこない。
私は「キスしちゃダメ」と言っただけで、手を繋いだりするのをダメと言った覚えはない。
それなのに、辰也は「手を繋いだらキスもしたくなっちゃうから…」とか言って手も繋いでくれない。
正直、その、寂しい。
「、お待たせ」
「あ、室ちん」
「アツシ、まだ帰ってなかったんだ」
「うん〜」
辰也が部室に入ってくる。
なんだか顔が赤くなってしまう。
「室ちん、なんでちんとイチャイチャしないの?飽きた?」
「あ、飽きたって…」
「飽きるわけないよ。でもが」
「ちんが飽きたの?」
「え、私!?そ、そういうんじゃなくて」
「どういうのなの?」
「オレがを怒らせちゃって…」
「やっぱりケンカじゃん」
け、ケンカなのかな、これ…。
発端はケンカだと思うけど、今のこの状態は、どうなんだろう。
「早く仲直りしてね〜」
敦はそう言って部室を出ていく。
仲直り…。前みたいに、その、イチャイチャしたり…。
………。
「?」
「えっ!?」
「顔が赤いけど、どうしたの?」
「い、いや、なんでもないです」
「そう?そろそろ帰ろうか」
辰也はいつの間にか着替え終わっている。
二人並んで部室を出た。
手は、繋がないまま。
*
「今日は部屋に来る?」
「!」
帰り道突然辰也にそう言われ、体を硬直させる。
いや、別に変な意味じゃなくて。
「う、うん」
辰也の部屋に着いて、いつもみたいに辰也が飲み物を持ってきてくれるのを待つ。
…早く戻ってこないかな。
「お待たせ」
「ありがと」
そう言って辰也からマグカップを受け取る。
温かいココアだ。
外はもう寒いから、温かい飲み物が嬉しい。
「ふふ」
「?」
「鼻、赤いよ」
「!」
「可愛い」
辰也はそう言うと私の肩を抱き寄せる。
顔が、近い。
「あ、ごめん」
「えっ」
辰也は謝ると、顔を離して手も退けてしまう。
……。
「?」
「…」
…多分、辰也はもうわかってる。
わかってて、私を待っている。
「…た、辰也」
「ん?」
カップをを机に置いて辰也の服を掴むと、辰也は私のおでこと自分のそれをくっつける。
また、顔が赤くなるのを感じる。
「ほら、早く」
辰也は楽しそうな顔で言う。
…意地悪…!
「あ、の」
「うん」
「…き」
「き?」
「…キスして、ほしいの」
真っ赤な顔でそう言う。
これできっとしてくれる。そう思っていたのに、辰也はおでこをくっつけたまま動かない。
「この間ダメって言ったのに」
「そ、それは…」
「二人きりでもダメなんじゃなかった?」
「う…」
「『本気だ』って言ってなかったっけ」
辰也にそう言われて目をぎゅっと瞑る。
辰也は、本当に、
「…意地悪…っ」
目を瞑ったままそう言ったら、唇に微かな感触が。
「…っ」
「ごめんね」
「ん…」
辰也はいつもの調子で「ごめんね」と言って、もう一度私にキスをする。
あ、やっと。
でも、
「た、辰也」
「ん?」
「…もう一回」
「一回だけでいいの?」
「!」
そう言われ思わず辰也の胸のあたりを叩く。
「ば、バカ!」
「はは、ごめんね」
「…っ」
「で、一回だけ?」
「…!」
辰也の顔は、本当に楽しそうだ。
私の顔は、きっと今までで一番と言っていいほど、赤くなってるだろう。
「…い、いっぱい」
「了解」
辰也は何度も何度も私にキスをする。
何度も触れる唇が、嬉しい。
「」
「……」
「ずっとこうしたかった?」
「…し、したかった、よ」
「オレも」
辰也にぎゅっと抱きしめられて、心が満たされる。
ああ、もう、二度とバカなこと言わないようにしよう。
キスしてほしいの
13.10.01
氷室祭り第一弾〜
ヒロインを毎日キスしないとダメな体にした氷室さんはちゃんと責任取ってくださいね
感想もらえるとやる気出ます!
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