4月7日、朝ごはんを食べているとき、お母さんとケンカをしました。
なぜケンカしたかと言うと、朝ごはんのピーマンをよけていたら、お母さんがそのピーマンを無理矢理食べさせてきたからである。
ピーマンごとき、とバカにしてはいけない。ピーマンが嫌いな人間にとって、ピーマンを口に入れると言う事は、ニュージーランドでヒモなしバンジーをやれと言われる事と同じくらい苦痛なことなのである。ヒモなしバンジーなんてやったことないけど。
始業式の日から最悪だ。今年一年いいことある気がしない。

「こんな緑色の物体食べれるわけない!」と、怒りに任せて朝ごはんの途中で家を飛び出したら、学校にやたら早く着いてしまった。
教室にいたのは、今年初めて同じクラスになった女子2名に男子1名、それに去年からクラスが一緒だった白石だけ。
このイライラした気持ちをどうにかしたくて、一目散に白石のところへ向かって、今朝起きたことをマシンガンのように話してみた。本当にマシンガントークをしたのはきっとこのときが生まれて初めて。

「もう家、帰りたくないっ…!きっとピーマン地獄になってるよ」
「ははっ」
「一緒にあった苦手なシイタケは頑張って食べたのにさ〜…」
「おー、偉い偉い」

あーあ、と机に突っ伏しながら溜め息を吐くと、白石はお疲れさん、と言って口の開いてないスポーツドリンクをくれた。

「これ、もらっていいの?」
「どうぞどうぞ」
「そ、ありがと」

さっぱりした味のそれを飲んだら、少しだけ舌に染み付いたピーマンの味は和らいだけど、やっぱり怒りは収まらなかった。






4月8日、ケンカ2日目。
昨日のことが原因で、友達と明るくきゃっきゃと話す気になれず、休み時間も一人机に向かっていると、白石がやってきた。

「まだ怒ってるん?」
「そりゃあもう」
「愚痴ならいつでも聞くで」

そう言うと白石は、私の前の席に座る。前の席の人は…確か沢口くんだったっけ。今年初めて同じクラスになる人だから正直顔も思い出だせない。
普通の状態なら前後の席の人くらい、2日もあれば覚えるけど、今、私の意識は全く別の方向に向いてるものだから、頭に入ってこないのだ。頭の中ほとんどピーマン。

「ていうかさー、何で親って苦手なものをあんなに食べろって言うの?白石のとこは?」
「さあ…俺は特に苦手な食べ物あらへんし。あ、妹はよく人参残しとるけど怒られたりはしてへんかな」
「…いいなー…」

白石ん家に生まれたかったな、なんて言ってみたら「アホ」って小突かれた。少し本気だったのに。
ああ…ピーマン食べなくてもいい家に生まれたかった…。






4月9日、ケンカ3日目。
ケンカしてからというものの、お母さんは私の分の料理やお弁当を作らない。作られても食べないけど。だって絶対にピーマン地獄だろうし。
だから、ごはんはすべてコンビニとかスーパーで買った惣菜とかそういうもの。
お昼ごはんも、登校中、通学路にあるコンビニで買っている。
今日は何を食べようかな、なんて考えながらいつものコンビニに入ると、白石がペットボトルコーナーの前にいた。

「おはよう」
「あ、、よっ。何か買いに来たん?」
「お昼ごはん」
「何や、まだケンカしとるん?」
「まだしてるよ。口聞いてないもん」

私はパンを二つと、ペットボトルの紅茶を一つ。白石はミネラルウォーターを一つ持ってレジに並んだ。

「お弁当あったほうが楽やろ」

後ろから聞こえた白石の声は、少し冷たかった。お弁当なんか、しばらく食べれそうにないな。
早く仲直りしろと、白石は言ってるのかな。






4月10日、ケンカ4日目。
我ながらあのくだらない原因のケンカが4日も続いてるな、って思う。
でも、今や怒りはピーマンのことだけじゃなくなっているのだ。

「考えてみれば、お母さんって何かと妹のこと贔屓してた気がするのよ。妹がラーメンのナルト残しても怒らないのに」
「ラーメンのナルトごときで怒ったら怒ったでどうかと思うで。怒らへんのが普通やろ」
「でも私がラーメンのメンマ残すと怒るんだよ」
「…そら、ちょっとムカつくかもな」

私のイライラはきっと今が頂点。妹のことばっか贔屓してさ、そんなに私が可愛くないのっ!?そりゃ自分が可愛い顔してるとは思ってないけどさ!

はかわええで」

白石がふと漏らしたその言葉に、私は一瞬固まった。






4月11日、ケンカ5日目。
ああもう、何で怒ってたんだっけ。もう怒りより白石が昨日言った言葉のほうで、頭がいっぱいになってしまった。
かわいい、なんて男子から初めて言われた。しかも白石が。あの顔でかわいいなんて言われたら、ねえ。
あ、怒ってた原因はピーマンだ、ピーマン。ピーマンを無理矢理口に入れられたんだ。
それに加えて妹贔屓だ。大丈夫、思い出した。
思い出したらイライラしてきた…はずなのに、なんだかイライラしきれない。

全部全部、白石のせいだ。





4月12日、ケンカ6日目。
怒ってる原因はわからなくなったのになぜかケンカは続いてる。多分これは、意地張ってるんだと思う。

ちゃんと謝るっていうか、話し合えばいいのかな、なんて思っていたら、携帯が盛大に鳴った。
メールではなく、電話。ディスプレイには、『白石蔵ノ介』の文字。

「…もしもし?」
『もしもし、俺やけど』
「オレオレ詐欺はもう流行ってないよ」
『名前出るとるやろ。で、まだケンカ中?』
「まあ、ケンカ中」

昨日は丸一日話さなかった。というか、一昨日の「かわええで」発言以来話してないんだけど。
たった一日話してないだけで、何だか随分久しぶりな気分。そっか、私が親とケンカして以来、毎日しゃべってたからか。

『仲直り、せえへんの?』
「あー…」
『まあ、早めに仲直りしたほうがええで。無駄なエネルギー使うだけやろ』
「ご忠告ありがとうございます」
『ほな、月曜楽しみにしとるで』

そう言って白石は電話を切った。月曜って、何が?あ、仲直りの報告ってことかな。
とりあえず、今日はお母さんが私の分のご飯を作ってくれたので、無言で食べた。お母さんも、無言。
ピーマンが少しだけ入ってたけど、半分くらい食べてみた。





4月13日、7日間続いた私とお母さんのケンカは幕を下ろした。





4月14日、学校に行くと、私の前の席には白石がいた。

「そこ、沢口くんの席だよ?」
「別にええやん」
「…ま、いいけどさ」

で、どうやった?と聞かれ、私はカバンからお母さん手作りのお弁当を出してみた。

「なんや、仲直りしたん?」
「ご迷惑おかけしました」

昨日、ピーマンについて激しく論議を交わしたら、ピーマンかシイタケどちらか食べればそれでよしということで落ち着いた。
こっちとしては、ピーマンを食べなくて済むのならそれでいい。シイタケなんてピーマンに比べれば可愛いものだ。

「よかったなあ」
「一週間ありがとうございました」
「お礼言うんやったら、謝礼が欲しいんやけど」
「…何言ってんの?」
「一週間もの愚痴聞いてたんやで?お礼の一つ二つあるのが当然や」
「いや、申し訳ありませんが無理です。一週間ずっとご飯買ってたからお金ないし」
「しゃーないなあ。なら自身でええで」
「…はぁっ!?」

思わず大声を出して立ち上がった私にクラス中の視線が集まる。
それに気付いて、慌てて座ると、白石が壁にあるカレンダーを指した。

「今日は何日や?」
「え…?14日?」
「4月14日って、俺の誕生日やねん。誕生日プレゼントプラス今までの謝礼でをもらいたいんやけど」

ああもう意味がわからない。さっき私が立ち上がったせいでクラスの視線は完全に私と白石に向いている。
そんな中「をもらいたい」なんて言われたら普通の人はパニックだ。興味と羨望の視線が痛い。




「俺が、好きでもない子の愚痴を一週間も聞いとるわけないやろ?」




私の頭は、ピーマンを食べれなくて済む喜びをすでに忘れてる。
この一週間で私はお母さんを落とし、白石は私を落とした。























ぼくらの七日間戦争
08.04.14









ぼくらの七日間戦争は映画と小説の題名です。あれを見ると家出したくなります。
映画しか見てないんですが、すっごく面白いのでお勧め!なんですが、ちょっと古いですね…。

そしてこれで白石の誕生日を祝えているのか非常に謎である。
おめでとう白石!