「室ち〜ん」
「アツシ。どうしたの?」

辰也と一緒に部室でこの間の練習試合のDVDを見ていたときのこと。
敦が転がり込んできた。辰也に用のようだ。

「どうしたの?」
「相談なんだけどね〜」
「え、ちょっと待ってよ」
「なに?」
「私いるけど、いいの?」
「別にいいよ〜」

DVDはもう見終わって粗方話したいことも話し終えてるし、話をするのはいいんだけど、私もいていいんだろうか。
そう思って聞いてみたけど、敦は特に気にしてなさそうだから、私もその場にとどまった。

「あのね〜この間彼女としようとしたらね、痛がっちゃってちゃんと入らなかったんだけど」

思わぬ言葉に思わず肩を強張らせる。
しようって、何を。入らなかったって、何が。

「ねえ、敦…」
「何、ちん」
「それって、何の話」
「セックスの話」
「敦ーーー!!!」

柄にもなく大声で叫ぶ。いや、これは叫ばねばならないだろう!!

「女子の前で何の話してんのよ!」
「え〜?」
「そこに正座!」

そう言って敦を床に正座させる。

「いい?別に辰也にそれを相談するのは悪いこととは言わない。相談するのはいいのよ。だけどなんで私がいる前でするのよ!?こういうのって普通信頼できる人にするものでしょ!?」
「オレ、ちんも信頼してるよー」

敦は真っ直ぐな瞳で私を見る。
くっ…!まぶしい!というか嬉しい!後輩に信頼されるって嬉しい!
いやいやそうじゃなくて!

「敦。信頼してくれるのは嬉しいよ」
「うん」
「でもね、こういう話は女の子の前でするものじゃないのよ。わかる?」

優しく、小さい子に諭すように話す。
きっとわかってくれるだろう。そう信じて。

「でもちん、もう室ちんとヤってるんでしょ」

スパーン、と渇いた音が部室に広がる。
丸めた月バスで、敦の頭を思いっきり叩いてやったのだ。

「いたーい!」
「敦いいいいい!!」
「わ、ちん超怖い顔してる」
「あったり前でしょうが!!何考えてんのよあんた!!」

喉が枯れるほど叫ぶ私。
そんな私を辰也は宥めるように背中を撫でる。

、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ…!」
「まあ、そうだね」
「…私、先に帰るわ」

多分、このままだと私の血管が切れる。

「ダメだよ」
「え」
「もう暗いから一人じゃ帰せない」
「でもここにいたら頭の血管切れるし」
「だから教室で待ってて?そんな時間掛からないから」
「…はい」
ちん、バイバーイ」

あんなに怒鳴って叩いたのに全く効いていないようだ。
…こいつは…。

「…じゃあ、待ってるので」
「うん」

そう言って部室を後にする。



「…はあ」

教室の自分の席について息を吐く。

……入らなかったって…うん、まあ…。
208cmもあるもんね、敦…。
彼女も大変だよなあ。私だって辰也と初めてしたときは痛かっ…

「いやいやいや!」

何考えてんの私!!何思い出してるの私!!

机を両手で叩いて頭を振る。
何か違うことを考えよう。そうだ、さっきの練習試合のこととか。
敦がまたジャンプボールでバイオレーション取られてたからなあ…。あれどうにかならないものか。
でもあいつ注意しても全然聞かないし…いくら大きいからって敦にばっかりジャンプボールさせなくても…。
いや大きいってそうじゃなくて

?」
「わっ!」

悶々としているといつの間にか教室の入り口に辰也が。

「は、早くない?」
「長くなる話じゃないから」
「…そうなんだ」

…どんな話したんだろう…。
そんなことを考えながら帰路につく。

「…ねえ」
「なに?」

二人で帰りながら、質問をする。

「…敦に変なこと、話してないよね?」
「変なことって?」
「いや、その…私の話とか」
「オレがそんな話すると思う?」
「…思わないけど」

辰也は繋いだ手をぐっと引き寄せる。

の一番可愛いところを他の男にバラしたりなんてしなよ」
「…っ」

辰也はちゅ、と音を立ててキスをする。
今人はいないけど、普通の道路。
相変わらずとうか、なんというか…。

「…ていうか、その」
「?」
「大丈夫そうなの、敦」

そう言うと辰也は目を丸くする。

「意外だな。はこういうこと聞いてこないと思ってたけど」
「…いや、まあ…」

…聞きたいと言うよりは心配だ。
デリカシーはないけど、真っ直ぐな目で私を信頼してくれる可愛い後輩。
可愛い後輩と、その彼女。

「いや、だってさ…好きな人とするのって幸せなことなのに、それができないって、やっぱ可哀想って言うか…」

うん、そう。心配なんだ。
だってしたいのにできないなんて、そんなのあんまりじゃないか。

「大丈夫だよ、たぶんね」
「…ほんと?」
「うん。それより」

辰也は繋いだ手とは逆の手で私の頬を優しく撫でる。
少し、くすぐったい。

、オレとするの幸せだと思ってくれてたんだね」
「え」

え、あ、そ、そうか、私の今の発言はそういうことか…!

「ちょ、ちょっと待って!今のなし!!」
「嫌とか言ってるけどそんなことなかったんだね」
「ち、違う!いろいろ違う!」
「確かにいつも抵抗してるけど体は悦んで」
「うわああああ!!」

涼しい顔して何言ってるのこの人!何とんでもないこと言ってるのこの人…!!
慌てて辰也の口を押さえるけど、辰也はその手を掴む。
そのまま楽しそうな笑みを浮かべて、私の耳元で囁いた。

「じゃあ、今日も幸せになろうか」

人の相談ごとに口を出すもんじゃない。
私は心底そう思った。











幸せになろうか
12.12.30

いろいろとごめんなさい
氷室さんは除夜の鐘で煩悩打ち消してもらった方がいいんじゃないですかね






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