放課後、図書室で試験勉強をしていたらすっかり遅くなってしまった。
学校内に人影はほとんどない。

こんな時間だし、みんな帰ってるんだろう。
そう思いながら校門へ向かうと、体育館から音が聞こえてくる。

何だろう、と思いながら覗いてみると、クラスメイトの氷室がいた。

「あれ」

氷室は私に気付いたようで、練習をやめてしまった。

「ごめん、邪魔した?」
「いや、大丈夫」

氷室は汗だくだ。
バスケ部は今日も普通に部活があったはず。
この時間に一人で練習してるってことは、部活の後に自主練してるってことだろう。
そりゃ汗だくにもなるはずだ。

「氷室、すごいねえ」
「え?」
「だって、自主練してるんでしょ。バスケ部の練習ってきついって有名なのに。
 その後も1人で練習してるって、すごいよ」
「そんなことないよ」

そんなこと、あると思うんだけどなあ。

「だってこうでもしないと、うまくなれないだろう?」
「?氷室ってレギュラーでしょ。十分うまいんじゃないの?」
「…そんなこと、ないよ」


まあ、慢心してたらうまくならないだろうし、いいことだと思うけど。

「でも、本当すごいと思うよ。私はそういうの、できないし」
「そういうの?」
「ひとつのことに一生懸命になるの。普通の人はできないよ。
 毎日練習してるってそれだけですごいっていうかさ。
 バスケがうまいとか強いとか、そういうことより『ずっと続けてること』がすごいと思う」

そう言うと、氷室は少し寂しそうに笑った。
そんな変なこと言っただろうか。

「ありがとう」
「え?」

氷室から出てきた言葉が意外で、思わず聞き返してしまった。

「な、何が?」
「いや、気にしなくていいよ。それより、今から帰るんだろ?」
「うん」
「送ってくよ。もう暗いし」
「え、大丈夫だよ」
「いいって。着替えてくるから、ちょっと待ってて?」

断わる暇もなく氷室は行ってしまった。
もう暗いのは本当だし、ありがたいことだし氷室の言葉に甘えよう。

待っている間に氷室の「ありがとう」の意味を考えてみたけど、結局わからないままだった。


























得意なことがあったこと
12.06.04

スポーツを見ているときにすごいと思うのは、
そのスポーツがうまいことや強いことより何より、その競技をずっと続けて練習していることなんですよね
長い間同じスポーツを見ていると余計にそう思います

タイトルはバンプの才悩人応援歌の出だしです
あの歌そのものというよりところどころ歌詞が氷室にぴったりだなと思って
「得意なことがあったこと 今じゃもう忘れてるのは それを自分より得意な誰かがいたから」
「隣人は立派 将来有望才能人」あたりが…

氷室を幸せにしてやりたいです