「あ、お疲れ―」
「おう、お疲れ」

部活が終わり、家に帰ろうと校門をくぐると虹村に会った。

「休みだから練習きっついね」
「まーな」

今は春休みだ。
授業がない分一日部活で、いつもよりハードな練習になっている。
今日から4月。春休みは残り一週間ほどだから、この厳しい毎日も折り返し地点だけど。
…そっか、今日は4月1日か。

「そういや今日エイプリルフールじゃん。虹村なんか嘘吐いてみてよ」
「なんだその無茶ぶり」
「いいからさ!」
「おい!」

エイプリルフールなのになにもしていない。
せっかくだから何か嘘でも吐いてみたいけど、思い付かないので虹村に振ってみる。

「えー…監督ってめちゃくちゃ優しいよな」
「や、優しいは優しいね…雰囲気とか…」

なんのかんの言って乗ってくれるのか。
虹村って、実は結構優しい。

「灰崎がケンカやめた」
「それは本当になってほしいね…」
「青峰バスケやめたいってよ」
「あのバスケバカが?」
「紫原がバスケ楽しいって言ってた」
「あはは、言ってくれたら嬉しいなあ」

虹村が適当に並べる嘘たち。
淡々と口にするものだから、大したことないのになんだか面白い。


「ん?」
「好きだ」

嘘の合間に、虹村が突然発した言葉。

「え…」

虹村があまりに真剣な顔で言うから、思わず立ち止まってしまう。

「な、なに言って」

好き、え、好き?

「おい、4月バカ」
「えっ」
「本気にしてんなよ」

虹村はデコピンすると、からかうように笑った。
あ、え…!?

「嘘!?」
「お前が嘘吐けって言ったんだろ」
「…!」

言ったけど!確かに言ったけど!

「ふん!」

なんか、すごくムカつく。
確かにエイプリルフールだからなんか嘘吐いてよって言ったけど、そういう嘘は、ちょっと違わないかな。
エイプリルフールって言ったら、もっと人を楽しませるような嘘とかさ。
こんな、嘘だとわかったらショックを受けるような嘘は、なんか…

「……」
「おい、怒ってんのか」
「…虹村」
「あ?」
「本当に嘘なの?」

なんとなく違和感がある。
だって、虹村だ。
灰崎とかならともかく、虹村がこういう嘘を吐くと思えない、
それに何より、さっきの真剣な顔が、嘘を吐いているように見えなかった。

「……」
「虹村…ぎゃっ!?」

虹村はもう一度私の顔を見ると、私の頭を手のひらでガッと掴んできた。

「え、なに痛いんですけど!?」
「なんでお前はなあ!」
「は!?」
「いつも鈍いくせにこういうときばっか鋭いんだよ!」

虹村の指の隙間から見える彼の顔は、赤い。
これは、もしかして、

「に、虹村」
「……」
「私、4月バカ?」
「……」
「バカじゃないなら、もう一回言って!」

虹村の手を私の頭からどかして、叫ぶように言った。
もう一度、言ってほしい。

「…言わねー」
「え…」
「今日言ったら、嘘になるだろ」

虹村は私と目を合わせずにそう言った。
そのまま、私の右手を取る。

「…じゃあ、明日?」
「どんだけせっかちなんだよ」
「聞きたいじゃん」
「お前も言えよ」
「…う」
「おい、オレだけに言わせる気かよ」
「言う、言います」

お互い今日は言わないけれど、繋がれた右手と左手が、私たちの気持ちを表している。









執行猶予期間
14.04.01

嘘と言い張れるのはエイプリルフールだけ





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