千尋はご飯を食べるとき基本何も言わない。
おいしいもまずいも味が濃いとか薄いとか、塩が足りないとか甘いとか、そういうの全部言わない。
いや、まずいはできれば言わないでほしいけど、おいしいと思ってくれたらおいしいは言ってほしい。
あと、味の好みも知りたいのでちょっとしょっぱいとか言ってくれたらありがたいなあと思う。

そう思うけど彼は絶対言わないので、私は彼の微妙な表情の変化を読み取ることが得意になってしまった。
口に入れた瞬間少し眉を顰めればああ、味が濃いんだなとか、首を傾げれば薄いんだなとか。
「ごちそうさん」と言う声が少し高いときはおいしいんだとか、その声がいつもに増してローテンションなときはあまりおいしくなかったんだとか。

とはいえ、やはり言ってもらわなくてはわらかないことはある。
だからできれば感想を求めたいところだけど、求めるとあからさまに嫌な顔をする。
以前千尋に「自分が作ったとき無言だと悲しくならないか」と聞いてみたけど「別に」と返されてしまった。
強がりでもなんでもなく、本当のことを言うときのテンションで。
なので、私は彼の表情から読み取るしかないのだ。


「いただきます」
「いただきます」

さて、今日もご飯だ。
今日はカレーライス。今日のために作ったものではなく、この間作ったものの余り…否、寝かせていたものだ。

「……お前さ」

半分ほどカレーを食べた後、千尋がぽつりとカレーを見ながら口を開いた。

「…うまくなったよな、料理」

思ってもみなかった言葉が飛び出してきて、思わずスプーンを机に落とす。
からんと乾いた音が響いた後、はっと気が付いた。
今日が4月1日なことに。

「…どうせ下手だよ…」
「は?」
「特に今日は残り物だし…あれだけど」

遠まわしに今日のご飯はおいしくないと言われている。
確かに今日のご飯は残り物だし…でも文句言われるのはショックだし悲しい。

「なんでそうなんだよ」

千尋が不機嫌な声を出す。
なんで、って。

「え、だって今」
「…まずいとか言ってねえだろ」
「だって今日エイプリルフールじゃない」

そう言うと、千尋は少し考えた後隣の携帯を見て納得したよう顔を見せる。
今まで今日がエイプリルフールなこと忘れていたのか。
…ということは。

「えっ、今の嘘じゃなかったの!?」
「………」

千尋は返事をせずにカレーの続きを食べる。
てっきり4月馬鹿だとばかり思っていた。

「も、もう一回言って!」
「二度と言わねえ」

千尋は苦虫を噛み潰したような顔をする。
思い切り不機嫌にさせてしまった。こうなるともう本当に二度と言ってくれないだろう。

しんと落ち込んで私もスプーンを改めて持ってカレーの続きを食べる。
あのとき、疑わなければよかった。そうしたらもう一回言ってくれたかもしれないのに。
落ち込むとカレーの味もわからなくなってくる。これ、甘すぎたかな。

「…

千尋が小さな声で私の名前を呼ぶ。
呼ばれたので顔を上げると、千尋はこちらを見ずにカレーを食べ続けながら呟いた。

「…まあ、うまい。お前の飯」

その言葉に、さっきまで落ち込んでいた心はどこへやら、表情が緩んだ。

「ありがと」
「……」

照れているのか、千尋は何も言わない。
言わないけど、さっきの言葉だけで、これからずっと頑張れる気がした。











スタンドバイミー
15.04.01







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