「あ、敦」

お昼休み、一年の敦の教室まできた。
今度の試合の連絡のためだ。

ちん、なに〜?」
「これ、今度の試合の要項。ちゃんと読んでね」
「えー…はーい」

敦は面倒そうな声を出しつつも、ちゃんと返事してくれているから読んではくれるだろう。
さて、ほかの一年にも渡さないと。
敦だけはちゃんと読んでくれるかわからないから直接渡したけど、ほかの子たちは一人に渡して「みんなに渡してね」で済む。
早くみんなに配って図書室に行きたい。

「…ちんさあ」
「ん?」
ちんと室ちんって付き合ってどのくらい?」

敦の教室から去ろうとしたら、敦が突然そんなことを聞いてくる。

「半年だよ」
「そっかあ、じゃああと二年半だね」
「?なにが?」
「別れるまで」
「えっ!?」

敦の言葉に大きな声を上げてしまう。
敦のクラスメイトが私を見つめるけど、そんな視線は今どうでもいい。
なんでそんな話になってるんだろう。
辰也がそう言っているんだろうか。
胸の奥に不安が広がっていく。

「ほら、あそこに書いてある」

敦が指を指した先は、机の上のファッション雑誌。
おそらく女子生徒のものだろう。
その雑誌の表紙には、「恋の賞味期限は3年!?」と大きく見出しが書かれている。

「…ただの雑誌の話じゃない」
「そう?でもあれ書いた人たちちんより恋愛経験も人生経験も豊富でしょ」
「……」
「も〜、むくれないでよ。ほんの冗談じゃん」
「バカ!」

ぷいと敦から顔を背けて教室を去った。
なによ、あんなこと言って!
敦は思ったことを素直に言う子だけど、今回のことはさすがに失礼だと思う。

「…別れないもん…」

廊下で一人小さくつぶやいた。
3年経ったって、別れるつもりなんてない。
この先、辰也を好きではなくなること、辰也以外を好きになること、そんな未来は私には考えられない。
辰也だって同じ気持ちのはずだ。
いつも「ずっと一緒にいようね」って、話しているんだから。

ぎゅっとプリントを持つ手に力を込めた。






、アツシと喧嘩したの?」

部活後、辰也と一緒に帰っていると、辰也がそう聞いてきた。

「え、なんで…」
「部活中ずいぶんアツシに冷たかったから」
「……」

辰也には言わないでおこうと思ったけど、そう聞かれてしまったので答えるしかない。
辰也に嘘は吐きたくない。

「昼休み、敦がね」
「うん」
「…恋の賞味期限は3年だから、ちんと室ちんはあと2年半で別れるんだね〜って、言ってきて。だから怒ってるの!」

頬を膨らませてそう言うと、辰也は私の髪をなでた。

「そっか」
「そうだよ、失礼でしょ!だって」

じっと辰也の顔を見つめる。
辰也の顔は優しい。
この表情が向けられるのがあと2年半だけなんて、そんなのは嫌だよ。

「…そんなことないでしょ?」

恐る恐るそう聞いた。
わかってる。辰也は絶対そんなことないって言ってくれるって。
だけど、ほんの少しだけ不安が胸の奥に燻っている。

「3年かあ」
「…え?」

辰也の口から出た「3年」という言葉にさあっと顔が蒼くなる。
ぎゅっと辰也の腕を掴んだ。

「3年経ったら、オレはまたに恋をするんだね」

不安になった瞬間に、辰也は私の一番欲しかった言葉を、ううん。それ以上の言葉をくれる。
ぎゅっと辰也に抱き付いた。

「辰也!」

「私もだよ」

辰也もぎゅっと抱きしめ返してくれる。
私も3年経ったらまた辰也を好きになるよ。
その3年後も、ずっとずっと。







ちん、昨日はごめんね」

部活前、敦がそう言ってお菓子をくれた。
敦は少し申し訳なさそうな顔をしている。

「え?」
「昨日ねえ、福井ちんに怒られて。『そんなん怒るに決まってんだろー』って」

そう言って敦はもう一つお菓子を渡してくる。
敦なりに、悪かったと思ってくれているようだ。

「ごめんね」
「大丈夫、もういいよ」
「本当?」
「うん。私たち絶対別れないからね」

遙か上にある敦の顔を見つめると、敦は面食らった顔をした。
やっぱり敦には理解できないようだ。

「アツシも好きな子ができたらわかるよ」
「辰也」

いつからいたのか、辰也が横からそう言ってくる。
敦は唇を尖らせた。

「そういうもん?」
「そういうものだよ」
「ふーん」

敦は首を傾げながら、ポケットからまたお菓子を出した。
敦にもきっといつかわかるよ。
この人しか考えられない。そんな人に出会えたら。











また君を好きになる
14.10.21






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