「うーん…」
昼休み、一人雑誌を見ながらうんうん唸る。
「、何してんだ?」
「高尾」
名前を呼ばれ顔を上げると、そこにクラスメイトの高尾の姿。
「これ、行きたいんだけどさ。三人以上で行けば割引なんだって」
「へえ」
私が指差したのはこの近くにある水族館。
今週まで高校生が三人で行けば入場料を少し安くしてくれるよう。
「でも友達みんな空いてなかったり興味ないって言われたりしてさ。一人で水族館行くのも寂しいし。でも行きたい…」
「そんな行きてーの?」
「行けなくなると思うと余計行きたくなる…」
「ははっ」
高尾は私の前の席に座って笑う。
どうしてこう、届かないとわかると欲しくなるんだろう。
「高尾は…無理だよね。部活あるし」
どうせなら高尾と行きたい。できることなら。
今回の割引プランだと誰かあと一人増えることにはなるけど。
まあ、どっちにしろバスケ部で忙しい高尾は無理だろう。
「別に平気よ?水曜ならオフだし」
「え?本当?」
おお、まさかの展開!
水族館に行けて、しかも高尾と一緒となればそれはテンション上がるというもの。
「じゃあ、誰かあと一人誘って…」
「おいおい、野暮なこと言うなよなー」
「え」
高尾はとんとんと割引プラン一覧のある項目を指す。
そこは、
「これでいいじゃん」
「え、いや、でも」
高尾の指したプランは、カップル割引。
そ、そんなもの使えるわけが…。
「別に男女二人で行きゃーいいだけだろ。まさか受け付けてチューしてくださいなんて言われねーだろうし」
「ちゅ、ちゅーって」
「オレの友達もこういうの興味ありそうなやついねーしさ」
ま、まあ、そういうことなら。
それに、少し恥ずかしいけど、…二人きりの方が嬉しいし。
「んじゃ、決まりな」
*
水曜、放課後。
少し緊張しながら、高尾と一緒に水族館に向かった。
「高尾、水族館とか好きなんだね。ちょっと意外」
「んー?まあ、久しぶりだけど。もう家族で行くって年でもねーし、男同士で行くとこじゃねーからな」
水族館の受付に付いて、券売機。
燦々と光っている(ように見える)カップル割引券。
こ、これを、押すのか…。
「んじゃ、これな」
「あ」
私がドキドキしていると、高尾はあっさりそのボタンを押す。
…うん、まあ、そうですよね…。
受付のお姉さんに券を渡して、水族館の中に入る。
私はドキドキして仕方ないのに、高尾はいつもみたいに軽い笑みを浮かべるだけ。
「……」
「ん?どうしたん?」
「…なんでもない」
意識してるのは私だけなのかな、と思うと少し寂しい。
…そもそも、高尾って友達多いし、女友達もたくさんいる。
多分、こんな感じのノリでいろんな子と遊びに行ってるんだろうな…。
「、なんか失礼なこと考えてねー?」
「え?」
高尾は訝しげに私の顔を覗き込む。
失礼って、
「なあ、今日何の日か知ってる?」
「え?…平日?」
「……お前なあ」
高尾は私の頬を両手で思いっきりつねる。
ちょ、痛い、痛い!!
「今日、オレ、誕生日なんですけど」
「え?」
誕生日、高尾の、誕生日。
え、ええええ!?
「し、知らない!」
「まー、言ってねーけど」
「言ってないならわかるわけないじゃん!なんでほっぺつねるの!」
「ちょっとむしゃくしゃしたから」
む、むしゃくしゃって。
高尾の誕生日に、こうやって二人でカップル割引使って水族館に来ているというだけで混乱気味なのに、ほっぺをつねられてもうわけがわからない。
「オレがさ、他のやつもこうやって誘ってんじゃね?って思ってたっしょ」
「う」
「まーよく言われますけどねーそういうこと。でもさすがにオレだって、誕生日になんとも思ってねーやつカップル割引使おうなんて言わねーぜ」
ドクン、と心臓が跳ねる。
そんなの、いきなり。
「う、嘘」
「オレ、こんなことで嘘言うように見える?そこまで軽薄じゃねーよ」
見えない。
高尾は軽くてノリがよくて、適当なこともよく言う。
だけど、いい加減な人じゃない。こんなことを、冗談で言う人じゃない。
「た、高尾」
高尾は今まで見たことないくらい真剣な顔で私を見る。
「…あの、カップル割引、本当にしちゃっていいんだよね」
「そりゃ、もちろん」
そう言えば、高尾はへらっといつもみたいに笑って、私の手を取った。
「…高尾、プレゼント、何がいい?」
「んー、いいよ、これで」
高尾は自分の人差し指を私の唇に当てる。
「あとで、これちょーだい?」
そう言われ、私は顔をぽっと赤くする。
そうか。もう、カップル割引は嘘ではないのか。
本当にしよう
12.11.21
ハッピーバースデー!
感想もらえるとやる気出ます!
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