「お願いです様一生のお願いです」 そう言って私の前で膝をついて両手を合わせるのは、幼馴染の赤也。 お前の一生は何回あるんだと突っ込みたくなるほど、赤也から「一生のお願い」をされてきた。 今回だけよ、と言いながらも毎回そのお願いを聞いてしまう私も私だけどさ。 「…今回は何?」 「俺にバレンタインのチョコをください」 「はあ!?」 思いがけない赤也の言葉に、思わず大声を上げてしまった。 だって、一番付き合いの古い赤也は、私がバレンタインとかそういうものを嫌ってることを一番知ってるはずだ。 特に理由なんてない。お菓子会社の策略に乗るのが嫌なわけでも女から贈り物をするのが嫌いというわけでもない。 何となく、あの2月14日らへんの周りの空気がどうも居心地が悪いのだ。 だから、14年間一緒にいる赤也にも、小学校の頃好きだった同じクラスの男の子にもチョコなんてあげたことはない。 「何で私があんたにあげなきゃいけないのよ!」 「だって先輩と賭けしちゃったんだよー!!誰が一番チョコもらえるかって!」 「別に私が1個あげたところで勝てるとは限らないじゃん」 「でも、もしかしたらその1個が勝敗を分けるかもしれねーし!」 「知るか!私がバレンタインとか嫌いなの知ってるでしょ!?」 「そこを承知でお願いしてんだよ!な、様お願いしますこれから1週間パシリでもなんでもしますから…!」 使い慣れない敬語を必死に使いながら赤也は懇願してくる。 なんていうか、弟か息子でも見てるような気分になってしまう。 私は、はあ、と一つ溜め息をついて、「わかったよ」と答えた。 「マジで!?」 「その代わりホワイトデーは30倍返しでね」 「さんじゅ…!?」 「ダメならあげない」 「…わかった」 結局のところ、何を言っても私はこれから先も、多分何回でも赤也の一生のお願いを聞いてしまって、赤也はそれに甘えるんだろう。 きっといつまでもこんな調子でいるんだろうなあと思ったら、少し可笑しくなって顔が緩んでしまった。 08.02.10 一緒にいるけどお互い恋愛感情じゃなくて、なのに10年後には結婚するような関係性の二人 |