「あ、満月だ」
部活の帰り道、澄み渡った空に丸い月が浮かんでいる。
そう言えば今日は十五夜だっけ。
「今日は十五夜だろ?」
「うん。敦がお団子食べるって張り切ってたなあ」
「あはは。お団子食べて、あとススキ飾るんだっけ」
今日、現代文の先生が授業の余った時間で言っていたことを辰也は話す。
辰也にとって懐かしい風習だろうけど、それはずっと日本に住んでいる私も同じだ。
昔は私の家でも月見団子を作ってお月見していたっけなあ。
私が大きくなったらやめてしまったので、少し懐かしい。
「月、綺麗だね」
辰也は月を見上げながら、優しい表情で呟く。
自分の顔が赤らむのを感じる。
「…告白?」
それも今日先生が言っていたことだ。
夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという話。
恋愛事に敏感な女子たちが色めき立ったのは言うまでもない。
「え?」
辰也は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、首を傾げて私を見る。
その表情だけで、私の今の発言が勘違いだったことがわかる。
さっきとは違う意味で頬が熱くなる。
「わ、忘れて…」
「ああ、そういえば先生が」
「忘れて!!」
顔から火が出そうだ。
熱くなった頬を隠しながら必死に叫ぶように言う。
私たちは相思相愛の中ではあるんだけど、改めて好きって言ってくれたのかなって…。
何度でも言ってくれるの嬉しいから、今日も言ってくれたのかなって…。
恥ずかしくて穴があったら入りたい…。
「あの話も綺麗だよね」
「う…」
「でもさ」
辰也は羞恥で俯く私の顎を持ち上げると、ゆっくり顔を近づけてキスをする。
「オレの『I love you』の訳は、これかな」
辰也は優しく笑う。
確かに遠まわしな言い方をするより、このほうが辰也らしい。
「の訳は?」
「え…っ」
まさか自分に振られると思っておらず、戸惑いの声を出すと辰也はもう一度キスをする。
「知りたいな」
期待に満ちた辰也の眼を見ると、少し焦ってしまう。
だけど、すぐに思いついた。
「ちょっと屈んで」
辰也に少し屈んでもらうよう頼む。
私よりずっと上のほうにあった辰也の頭が、近くなる。
「ん」
ぎゅっと辰也を抱きしめて、彼の頭を撫でる。
辰也を愛しいと思ったとき、いつも私はこうしたくなる。
「…伝わる?」
「伝わってる」
辰也は優しい顔で答えてくれる。
私も、伝わってるよ。
今日も明日もこれからずっと、一緒に見る月は綺麗だね。
月が綺麗ですね
14.09.07
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