「勝った!勝ったっスよ!」

海常高校バスケ部がインターハイ出場を決めた日、黄瀬が私のところへ駆け寄ってきた。

「さっきメール見たよ」
「直接も報告したいっス!」
「そう、おめでと」

黄瀬は満面の笑み。
うちは毎年全国出場してるくらいなのに、出場ってだけでそんなに嬉しいものなんだろうか。

「そりゃあ嬉しいっスよ、練習の成果が報われたんスから」
「ああ、最近練習大変そうだったもんね」
「ホントっスよ…あれはマジ地獄っス…」

黄瀬は練習内容を思い出したのかあからさまにしゅんとなった。
…そんなに大変だったのか…。

「そんな大変だったなら、全国優勝するくらいしないと報われないんじゃない?」
「…優勝、っスか…。んー、どうっスかね」
「?」

いつも無駄に自信満々なのに、今回はやたら謙虚というか自信なさげだ。

「何よ、あんたらしくない」
「…優勝は、大変っスよ。だって一回も負けたらいけないんスから」
「へえ、なんか真面目」

いつもおちゃらけてるというか、冗談ぽく喋るからこうやって真面目に喋ってるのって新鮮。

「頑張ってね」
「頑張るからちゅーして欲しいっス!」
「…バッカじゃないの」

…珍しく真面目、と見直した私がバカだった。
黄瀬は黄瀬だった。

「だってオレホント頑張ったんスよ!ご褒美!あとこれからも頑張って的な応援の意味も込めて!」
「バッカじゃないの」
「今日2回目!」
「だってバカなんだもん」
「だっていっつもキスするときオレからじゃないっスかー。たまには!ね!」

お願い!と手を合わせる黄瀬を見て、まあ、いいかなという気分になる。
確かに頑張ってるのは本当だし、その頑張りが報われて欲しいと言う気持ちもある。

「…わかった」
「やった!」

そう言って黄瀬の前に立つ。
背の高い黄瀬に近づくため、爪先立ち。

「…黄瀬」
「なんスか?」
「屈んでよ。届くわけないでしょ。あんた自分の身長わかってんの」
「えー?」
「えー?じゃない。自分からキスしてって言ったんでしょ」
「だって、オレに向けて背伸びしてるところが可愛いから!」

満面の笑みでそう言った黄瀬に、本日三度目の「バッカじゃないの」を言ってやろうかと思った瞬間、
黄瀬が屈んで真剣な目で見つめてくる。

「じゃ、改めて」

怒ろうとしたのに、怒る気がなくなってしまった。
私はこの目に弱いんだ。

「…じゃあ、目、瞑って」
「はい」

少しだけ背伸びして、黄瀬にキスをした。






爪先立ちでねだって
capriccio様から拝借
きみにキス、きみとキスお題




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