「あ、」
「氷室、今部活終わったの?」
「ああ」
「今日は早いんだ」
夏休み、夏期講習の帰り、部活帰りの同じクラスの氷室に会った。
バスケ部はいつも遅くまで活動しているけど、今日は早く終わったようだ。
「氷室、練習大変?」
「まあね。でも仕方ないさ」
「すごいよねー、ほとんど毎日でしょ?部活」
「まあ、好きでやってることだから」
そんな世間話をしながら帰り道を歩く。
氷室とは割と仲がいい方。
いろんな話をしながら笑いあう。
「講習はどう?」
「肩凝った」
「はは」
「ずっと机に向かってるのってつらいなあ」
「じゃあ、海にでも行かないか」
「え?」
思わぬ言葉に、目を丸くする。
「海?」
「うん」
「い、今から?」
「うん」
「…私と?」
「他に誰かいる?」
「いませんけど…」
突然の展開に驚きを隠せない。
うみ、海。
「今から行ったら遅くなるんじゃ」
「泳ぐわけじゃないし、少し水遊びしようかなって」
「……」
「嫌?」
「…嫌じゃないけど」
「じゃあ、決まりだ」
そんなこんなで、氷室と二人海に行くことになりました。
*
「わ、夕焼け」
「すごいな」
電車に乗って本当に海に来た。
なんというか、スピード展開…。
「本当に来ちゃった…」
「来たくなかった?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
靴と靴下を脱いで海に入ってみる。
ひんやりする。
「ちょっと気持ちいいね」
「うん」
「あ、貝殻」
砂からひょいと貝殻を取る。
きれいだなあ。
「今日の思い出?」
「はは、そんなところ?」
「オレも一つ取っていこうかな」
氷室も貝殻を一つ取る。
私はその場に座った。
「はー、海、久しぶり」
「そうなの?」
「うん、ちっちゃい頃に家族で来た以来」
ハワイの海、とまではいかずとも沖縄の海みたいなきれいな海なら何度も来たくなるんだろうけど、所詮日本海。
泳ぐだけならプールに行くし、海は焼けるし…なんて思って来てなかった。
「でもやっぱり、楽しいな」
今まで来てなかったのを後悔する。
やっぱり、楽しいや。
「氷室は海好き?」
「ああ、向こうではよく行ってたよ。サーフィン好きなやつもいたし」
「へえー」
そんな話をしながら水平線を眺める。
まぶしい。
「…」
海、というか、水遊びと言えば…。
そう思って、氷室に思いっきり水を掛けてみた。
「えい!」
「わっ!」
「ふふ」
「…よし」
「きゃっ!」
氷室は当然のようにやり返す。
冷たくて気持ちいい。
「はー、やっぱり海に来たらこれだよね!」
「そうだね…あ」
「?」
「ちょっとまずいな。透けてる」
「え!?」
透けてるって、え、ええ!?
「わー!」
咄嗟に屈んで、膝を抱える。
ま、まさかの展開…。
「これ、使ってないから」
「あ、ありがと…」
「悪い。そんなになるとは思ってなくて」
「う、うん…」
氷室はそう言ってタオルを貸してくれる。
肩に掛ければとりあえず、大丈夫かな…。
「ごめん」
「いや、私からやったし…」
「こっちおいで」
氷室は私を手招きする。
なんだろう。
「ここなら人も来ないだろ。乾くまで待ってよう」
着いたのは岩陰。
外からは見えない。確かにここなら外から見えないし、乾くのを待つにはいいかも。
「ふう…」
氷室と並んで座る。
一時はどうなるかと思ったけど、暑いしすぐ乾くだろう。
「…」
「ん?」
「そんなに無防備で、大丈夫?」
「え?」
氷室は一歩、私ににじり寄る。
「そんな格好で、誰にも見えない場所で、二人きり」
「え…」
氷室が私に寄って来るから、私も下がる。
え、いや、まさか、氷室に限ってそんな。
「…ひ、氷室さん…」
「まあ、冗談だけど」
「………」
ああ、そうですか…。
「楽しかったな、海。ちょっとしか遊んでないけど」
「うん」
「また来ようか。今度は泳ぐ?」
「…うーん。…焼ける」
「はは、そっか。女の子は気にするよね」
「またこういう水遊びにしようよ。クラスのみんなも誘う?」
「…いや、うるさそうだし。また二人で来よう」
そう言った氷室の目は普段と違う雰囲気で、少しドキっとしてしまう。
「……」
「もう乾いた?」
「あ、う、うん」
「じゃあ、行こうか」
もう帰る時間か。寂しいな。
そんなふうに思いながら駅へ向かう。
「楽しかったな、今日。帰るの遅くなっちゃったけど」
「でもいい疲れだよ。なんかよく眠れそう」
「……」
「氷室?」
「…そうだね」
「?」
「また明日から頑張れそうだ」
「うん」
そう言うと氷室は笑う。
私も明日から頑張ろう。
そしてまた、氷室と海に行きたい。
海の音
13.07.30
風來さんリクエストの室ちんとうだうだやってる友情話でした〜
風來さんありがとうございました!
感想もらえるとやる気出ます!
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