玄関のチャイムが鳴る。
虹村だ。
私とお父さんが玄関へ向かう。
「こんばんは」
「ああ、のことよろしくな」
「はい」
お父さんと虹村の会話は何度聞いてもむず痒い。
早く出たい…。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
家族にそう告げて、玄関から出る。
「寒っ」
「真冬だからな」
「雪降るかなあ」
「降んねーだろ、さすがに」
並んで歩き出す。
向かうは近所の神社だ。
今日は大晦日。今は0時前。
二年参りに向かっているのだ。
「男と二年参りとかよくお前の親父さん許可するよな。オレぜってー無理だわ」
「そう?」
「裏で何してっかわかんねーじゃん」
「あなた真面目だから信頼されてるんですよ修造さん」
「…ふーん」
虹村はちょっと複雑そうな顔をする。
あんまり信用され過ぎるのも…ってやつだろうか。
でも実際、こうやって神社に向かってるだけだし、ねえ。
真面目と言うか、律義と言うか。
「おー、着いた。混んでんな」
「わー…行きたくなーい」
「ここまで来てお前…」
「や、冗談です、半分」
ちょっとこの人ごみは躊躇してしまうけど、さすがにここまで来て引き返すのは嫌だ。
「行くぞ」
「わっ」
虹村は私の手を掴む。
握るって言うか、掴む。
掴んで、そのままずんずん境内の方へ進んでいく。
「ちゃっちゃと済ませようぜ」
もうすぐ0時だ。
今年が終わる。
「あ、明けた」
「マジ?」
「ほら、おめでとう」
携帯の時計を見せてそう言う。
あけましておめでとう、の時間だ。
「おう、おめでとさん」
「はー、今年も始まったんだねえ」
「ああ」
そう言っている間に境内の前に着く。
用意してあった五円玉を投げ入れて、お願い事だ。
「……」
私も、私の周りのみんなも、幸せに過ごせますように。
顔を上げると、虹村ももう終わったみたいだ。
二人で列から外れた。
「なにお願いしたの?」
「言わねー」
「やっぱり。毎年そうだよね」
「言うと叶わなくなる気がすんだよ」
虹村はちょっと切なげな顔で言う。
……。
「あ、そうだ、甘酒飲もう!」
「酔うぞ」
「酔うか!」
甘酒二つ頼んで、二人で飲む。
熱い。
「熱…っ」
「鼻、赤くなってんぞ」
「ん…」
虹村が私の鼻をくすぐるように触る。
「おいしい」
「ああ」
「…」
「出ようぜ」
「え?まだ飲み終わってないよ」
「飲みながら帰りゃーいいだろ。紙コップだし」
そう言うと虹村は出口に向かってしまう。
……なによ。
せっかくだから、もうちょっと二人でいたいなあ、なんて思ってたのに。
「……」
「……」
「何不機嫌な顔してんだよ」
「別にー」
もうちょっと一緒にいたかったな、と思いつつ、私の家までの帰り道を歩く。
深夜だけど、年越しだからか、結構人はいる。
「……」
「ちょっと、こっち来い」
「?」
虹村は私の手を引っ張ると、横道に入る。
…?
「何、どうしたの」
「……」
虹村は私の手から空になった紙コップを取ると、じっと私を見つめる。
「虹村」
「あんま信用し過ぎんなよ」
「…っ」
虹村は私にキスをする。
優しい、触れるだけのキス。
心臓が、一気に鼓動を大きくした。
「…に、虹村」
「……」
「…お父さんに殴られるよ」
「上等だ」
虹村の腕の中。
ああ、なんか、いいな。
「…虹村」
「なんだよ」
「寒いね」
「…おう」
抱きしめあったまま、しばらく過ごした。
遅いとか言われたら、混んでたとか言えば、いいかな。
うそつき
13.12.31
殴られるって言ってもちゅーしかしない虹村先輩
やっぱり律義!
今年もお世話になりました
来年は虹村先輩もっと増やしたいな〜
感想もらえるとやる気出ます!
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