朝、寒さに身を縮ませて学校への道を歩いていると、前を歩くクラスメイトの姿を発見した。
「氷室、おはよう!」
「ああ、。おはよう」
クラスの中でも氷室とは割と仲がいい方だ。
「今日の英語の課題やった?」なんて話をしながら歩いていると、後ろからいきなりずっしりとした重みを感じた。
「うわあ!?」
な、何!?と思うと、2mを超す巨体が私に寄りかかっていた。
「敦、重い!本当重い!無理!つぶれる!!」
「むー…」
「アツシ、が潰れちゃうよ」
氷室の言葉でようやく敦は私から離れてくれた。
「な、なんなのいきなり」
「…室ちん、先行って」
「え?」
「いーから」
「はいはい」
しっしと犬を追い払うような手で氷室に先に行くように促す敦。
最近、なんだかこういうことが増えたような。
*
「妬いてるんだよ、アツシは」
どんなに先に行けと言ったところで、私と氷室の向かう場所、教室は同じなわけで。
教室に着いた私と氷室は、お互いの席―隣の席に座ってそんな話をしていた。
「妬いてるって…なんで?私と氷室でしょ?」
氷室とは同じクラスで、友達。
そして何より、学年も部活も違う私と敦を引き合わせてくれた人だ。
「誰が相手だからとかじゃなくて、単純にがほかの男と話すのが嫌なんじゃないの?」
「そういうものなの?」
「オレはわかるよ、そういうの」
氷室は小さく笑う。
「いいじゃないか、愛されてる証拠だよ」
「…まあ、そうだけど」
…うーん、なるほど。嫉妬かあ。
そんなもの、する必要はどこにもないのに。
*
「敦」
その日の昼休み、敦の教室の入り口で彼を呼ぶ。
「なーに?」
「お弁当作ってきたから、一緒に食べよう」
そういうと、朝の不機嫌さはどこへやら、ぱあっと顔を明るくした。
「やったー」
「はい。どこで食べようか。外はもう寒いし、学食は混んでるしなあ…」
教室で食べるのはできれば避けたい。教室で恋人と昼食は、やっぱり恥ずかしい。
「美術室でいっか」
「美術室?」
「誰もいないだろうし、暖房も効いてるから」
「うん、別にどこでもいいよー」
敦はご機嫌で私の後を付いてくる。
可愛い奴だなあ、なんて思いながら。
*
「ねえ、敦」
「んー?」
お弁当を食べながら、敦に思ってたことを聞いてみる。
「今日の朝、不機嫌だったじゃない」
「…うん」
「あれってさ、妬いてたの?」
私の言葉に、敦はまた不機嫌な顔に戻る。
「…それ以外、何があるの?」
「だって、相手は氷室でしょ。氷室が私と敦を会わせてくれたんだし、妬く必要がないと思うんだけど」
そういうと、敦は軽く私の頭をチョップする。
「痛!」
「バーカ」
「ば、バカって」
「バカじゃん。バーカ」
「…なによ」
あまりにバカバカ言われるもんだからこちらも段々不機嫌になってくる。
「別にちんが室ちんとどうにかなるとか思って妬いてるわけじゃねーし」
「じゃあ、なんなのよ」
「別にー。ただムカつくだけー」
はあ、と大きくため息を付いた。
「ねえ、敦」
「…何?」
「私は敦が好きだよ」
そう言って、敦の頬を撫でると敦は少し目を細める。
「好きだなあって思うのも、お弁当作ってきたりするのも、こうやって触れるのも敦だけ。それじゃ不満?」
「…うん」
敦は小さく答えると、私の体を強く抱きしめた。
「だってオレ、ちんに授業中に消しゴム貸したりできない」
「消しゴム?」
思わぬ単語に力が抜ける。
「席替えで隣になったりとか、授業中に起こしてもらったりとか、そういうのできないじゃん。室ちんはできるのに」
ああ、なるほど、そういうこと。
「敦、それなら一緒じゃない」
「?」
「私だって、敦に消しゴム貸したり、席替えで隣になったり、授業中に敦のこと起こしたりできないの寂しいよ」
「…ちんも?」
「うん、でもね」
同じクラスじゃないとできないことはたくさんある。
それが敦とできないのは寂しいけれど。
「でも、こうやって、敦のこと好きになって、敦も私を好きになってくれたんだから、そんな小さいことどうでもいいよ」
「小さくないよ」
「小さいよ。だって、私は、消しゴム貸したり、隣になったり、授業中に起こしてあげたりするのができたって、敦に好きになってもらえなかったら、そっちのほうが嫌だもん」
「…でも、だったら好きになってもらって、一緒のクラスがいい」
「無茶言わないの」
ああ、本当にこういうところ子供だ。
「ねえ、敦。しょうがないじゃない、年が違うのは。どうしようもないんだよ。だったら、嘆くよりどうしたらもっと楽しくなるか考えようよ。私は、敦が妬いて悲しい顔したり怒った顔するの、嫌だよ」
そう言うと、敦は少し驚いた顔をする。
「ちん、オレが妬いてるの、嫌だった?」
「妬いてるのが嫌って言うか…それ自体はいいんだけど、好きだから妬いてるんだし。でも、敦が不機嫌になったりするのは困るよ。敦だって、私が嫌な気分になったら嫌でしょ?」
敦は「思ってもみなかった」という顔をする。
「ちん、ごめん」
「?」
「嫌な思い、させたんでしょ」
「いいよ。でも、妬く必要がないことはわかってね」
そう言って、背筋をぴんと真っ直ぐにして敦にキスをする。
「こんなことするの、敦だけなんだから」
そうすれば、敦はさっきまでの不機嫌さはどこへやら。
明るい顔に戻ってくれる。
「敦、その顔が好きだよ」
「うん、オレもちんが気分いいほうが、全然いい」
笑って
12.11.20
リクエストの 氷室と同クラヒロイン・紫原が嫉妬する話でした
ヒロさんありがとうございました!
紫原は嫉妬するのが苦手そうだなあと思います
自分の「嫌!」って気持ちが前面に出ちゃう感じ
感想もらえるとやる気出ます!
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