「うーん…」
今日は部活もバイトもない休日。
辰也と一緒に大きい街でデートの予定だ。
「…どうしたんだろ」
…デートなんだけど、待ち合わせ時間になっても辰也が来ない。
珍しいな、私と待ち合わせするときはあんまり遅刻しないんだけど…。
「ねえ、ちょっといい?」
時計を見たり周りを見たり、キョロキョロしていると男の人に話しかけられた。
「あのさ、オレこの辺初めてでさあ、ちょっと道聞きたいんだけど」
「え…」
道、って…。
秋田から数か月前に上京してきたばかりで、この辺はあまり詳しくない。
聞かれても答えられる自信がなく、一瞬固まる。
「私、あんまりこの辺り詳しくなくて…」
「いや、映画館あるじゃん?ピカデリー。有名だしわかると思うんだけど、オレ初めてでさ〜」
「あ、それなら…」
それなら有名だし知っている。というか今日辰也と行く映画館だ。
指をさして案内しようとする。
「ここを真っ直ぐ行って、二個目の信号を左に…」
「あー…ちょっと言葉じゃわかりにくいな〜。案内してくれないかな?」
「え…」
そう言われて一瞬迷う。
確かにわかるけど…。
「ダメ?」
「あ…私、待ち合わせしてて…」
「えー?大丈夫だって、だってずっと来ないんでしょ?」
「え」
「ね!案内してくれるだけでいいからさ」
「わ、ちょ…っ」
男の人は私の腕を掴んでくる。
ちょ、ちょっと…!
「…おい」
「うわっ!?」
「辰也!」
腕を引っ張られて慌てていると、辰也がやってくる。
少し息が上がっている様子だ。
辰也は私の腕を掴む男の人の手を力強く握った。
「…オレの彼女に何か?」
「え!?」
「早く離してくれる?」
辰也は男の人を向いているから表情はわからないけど、声は驚くほど冷たい。
怖くてドキドキしてしまう。
「し、失礼しました〜」
男の人は手を離すとすごすごと帰って行った。
ほっと胸を撫で下ろすと、辰也が眉を下げて私の方に向き直す。
「…もう、ナンパはきっぱり断らないと」
「え?」
「『え?』って…」
「え?ナンパ?」
「気付いてなかったの?」
「だ、だって、道案内してくれって言われて、説明したんだけど、わかりにくいって言われて…」
「それで一緒に行こうって?」
「うん…」
辰也は大きなため息を吐く。
「それがナンパなんだよ」
「ナンパ…」
「気付かなかった?」
「だって、ナンパなんてされたことなかったし…」
「……」
辰也はもう一度ため息を吐く。
う…。
「ご、ごめんなさい…」
言い訳になってしまうけど、今まで本当にナンパなんてされたことがなく。
まさか自分が…と思っていたから…。
「謝らなくてもいいよ。ただ、次からはちゃんと断ること。わかった?」
「うん」
辰也は私の頭を撫でる。
優しい表情にほっとする。
「オレも遅れてごめんね」
「あ、そういえば珍しいよね?辰也が遅刻するの」
辰也は授業とか普通の待ち合わせだと結構遅刻魔だけど、私との待ち合わせにはほとんど遅れない。
(私としては、私との待ち合わせは多少遅れてもいいから授業はちゃんと時間通り行って欲しいんだけど…)
「ああ、ちょっと道聞かれちゃって」
「え」
「おばあさんだったんだけど、あまりこの辺り慣れてないみたいで」
「大丈夫だった?」
「うん。遅れてごめんね?」
「ううん、それなら仕方ないよ」
そんな理由なら怒ることもできない。
相手がおばあさんなら、なおさら。
「お詫びに何か奢るよ。怖い思いもさせちゃったし」
「いいよ、そんなの」
「でも」
「…じゃあ、辰也の分は私が出すよ」
「どうして?」
「…ナンパされちゃったし、辰也も嫌な思いしたでしょ?」
辰也はこの顔だし女の子に声を掛けられることも少なくない。
ちゃんときっぱり断ってくれるけど、そのたびに嫌な気分になってしまう。
私がそう思うんだから、辰也だって、私がナンパされてるのを見て嫌な気持ちになっただろう。
しかも、私は気付いてなくて断りきれてないわけだし…。
「お互い様ってことで、ね?」
そう謝ると、辰也がいきなり抱きしめてくる。
「わっ!?」
「いいよ、可愛いから許すね」
「え?!」
「そうだね、こんなに可愛いんだからナンパもされるよね」
「た、辰也…?」
なんか、これ、まずい気がする。
辰也の眼は、その、色っぽいと言うか。
「た、辰也、映画…」
「今度にしよう?まだしばらくやってるし」
「……ど、どこ行くの?」
「決まってるだろ?」
辰也はにっこり笑う。
「二人っきりになれるところ」
あ、これしばらく映画見られないな。
というかご飯も食べられないな。
笑う辰也を前にしてそう思った。
笑う君
13.12.03
ちょっと可愛らしいこと言うとすぐにお持ち帰りしたがる氷室さんいい加減にしてください
氷室は遅刻魔かそうでないか。
私は彼女との約束だけきっちり来て他はルーズ説を推します
紫原に東京見物を頼み待ち合わせをしたにも関わらず「ストバス楽しそう」とか言ってバスケし始め勝手に待ち合わせ場所変更、挙句の果てにちゃんとストバス場に来てくれた紫原に対し「遅いぞ」と言った彼が時間を守るはずがないと思う…。
あの部分は何度読んでも「お前『遅いぞ』とか言っていい立場じゃないから!!」って思います
自由人な氷室萌え
感想もらえるとやる気出ます!
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