高校二年の春の終わり。
私は赤司君の部屋に来ていた。

「お、お邪魔します…」
「そんなに緊張しなくていいだろう」
「いやいやするよ!」

小声で、でも少し強めの口調でそう言う。
普通にお付き合いしている相手の部屋に行くのにだって緊張するだろうに、それが「女子禁制の寮の部屋」となればなおさらだ。

私も赤司君も洛山の寮に住んでいる。
当然男子寮女子寮はそれぞれ異性の行き来は禁じられている。
だからデートをするときは当然外に行っていたのだけど、つい先日赤司君が「オレの部屋に来ないかい」と言ってきたのだ。
「大丈夫、バレないから」と付け加えて。

「本当にバレない…?」
「ああ、大丈夫。先輩方のお墨付きだ」
「……」

私も女子の先輩からときどき男子寮に忍び込んだ人の話を聞くことがあったけど、まさか自分がそれをすることになるとは。
しかも、葉山先輩みたいなタイプならともかく、赤司君からそういうお誘いがくるとは思わなかった。

「外でのデートもいいけれど、外ではできないこともあるからね」
「え」

そう言われて、思わず赤司君から一歩体を離す。
「彼氏の部屋」というのはそれなりの覚悟を持って行くべき場所なのだろうけど、ここは学校の寮だ。
さすがにそういうことにはならないだろうと思ってここに来たのだけど、その見通しは甘かったのだろうか。

「ああ、すまない。別に大袈裟な意味じゃないよ」
「あ、は、はい」
「ただな」

赤司君はそう言うと、隣に座る私の肩に頭を乗せる。

「人目があるとこういうことも気軽にできないだろう」

赤司君は少し甘えたような口調でそう言う。
確かに外では手をつなぐぐらいならいいけど、キスをしたり抱きしめあったりなんてこそこそと隠れなくてはできない。

「人目を気にせずに触れるというのを一度やってみたくてね」
「…意外と甘えん坊?」

赤司君は目を瞑って、私に体重を預けてくる。
言葉からしてもいつもの赤司君らしくない。
なんというのだろう、こうやって甘えてくる赤司君を見ると、「愛おしい」とはこういうことなのだろうと思う。

「はは、そうだな。意外とオレは甘えたがりかもしれない」

赤司君は薄く笑ってそう言う。
その笑顔がかっこよくて色っぽくて、なんだか行動と表情が全くかみ合っていないのが、余計に彼が愛しくなる。

「よしよし」
「おや、これはいい」

赤司君の頭を撫でてみる。
子ども扱いするなと言われるかと思ったけど、赤司君は嬉しそうに目を細めた。

赤司君は同年代とは思えないほど大人びている。
一年のときから強豪バスケ部の主将を務め、進学校の洛山で学年トップ、生徒のみならず教師からも頼られるリーダーシップ。
ここまで揃っているのに決してそれをひけらかすことはない。
本当に同じ人間なのだろうかと思うことがあるけれど、こういう姿を見ると彼も高校生なのだなと思う。

「赤司君」
「ん?」
「たまには、こういうのもいいね」
「ああ」

そう言うと赤司君は今度は私の膝の上に頭を乗せる。

「あまえんぼ」
「君の前でしか見せないよ」

その言葉に一人で優越感に浸ってしまう。
誰も知らない、私だけが知っている赤司君のこんなところ。










私だけが知っている
15.09.09

ゆきさんリクエストの赤司でした!ありがとうございました〜!



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