「お前は何も言わなくていいのか?」

岩泉にそう言われた。
幼馴染の徹に何も言わなくていいのかと。
荒れている徹に何も言わなくていいのかと。

「言えないよ」
「なんでだよ」
「私には、岩泉みたいなことは言えないよ」

徹は最近随分と荒れていた。
何が原因か、聞かされたわけじゃない。
私でも聞けないほど、最近の徹は恐くて近寄れなかった。
でも、ときどき見ていた部活の様子や、試合、岩泉の話から、何となく想像はついていた。
だからこそ、私には何も言えないと思った。

帰宅部の私は、徹の苦しみなんて何一つわからない。
彼に掛けられる声なんて何一つなかった。

「お前が及川にできることと、俺ができることは違うと思うぞ」

岩泉は私の頭をぽんと叩いた。





「徹」

徹の家に来て、おばさんに「徹なら部屋よ〜」と言われ、部屋の前に。
昔はノックなんてしなかったけど、さすがに中三になって、ノックしないで入るのは気が引ける。
ノックをして名前を呼べば、いつもの柔らかい声が返って来る。

「はーい?」
「入るね」

徹の部屋に入って、彼の隣に座る。
昨日までが嘘のように、徹は柔らかく笑っている。
昔からの、あの、笑顔。

「どうしたの?」
「…徹、吹っ切れた顔してるね」
「そう?」

徹はふふ、と笑って見せる。

「岩ちゃんのおかげかな〜」

ああ、やっぱり。
岩泉が何を言ったかは知らない。
でも、それは、チームメイトにしか言えない言葉だったのだろう。

「徹」
「ん〜?」
「何か私にしてほしいこと、ある?」

岩泉の言った「私にしかできないこと」が何か、わからない。
私は徹のために、何ができるのか。

「んー…」
「……」
「…じゃあ、膝枕」
「え?」
「うん、それがいいな」

徹は私の返事を聞く前に、私の膝に頭を乗せる。

「ああ、いいな〜これ」
「ちょ…っ」
「…気持ちいい」

徹は目を細める。
それだけなのに、私はなぜか涙が出そうになる。

「…徹」
「どうしたの?」
「…ごめんね」

私のいきなりの謝罪に、徹は目を丸くする。

「なんで謝るのさ」
「…最近、辛そうだった」
「……」
「徹の傍にいたのに、私、何もできなかった」

そう、そうだ。
私は徹のこんなに傍にいたのに、徹が苦しいときに、何もできなかった。
かける言葉が見つからなかった。
徹のために、何かしたかったのに、何もしてあげられなかった。

「ごめんね」

涙が出そうになるのを必死にこらえた。

「…

徹は私の頬を撫でる。
大きな手だ。

「別にいいんだけどね〜」
「な、にが」
「そこにいるだけで、いいんだよ」

徹は優しく微笑んだ。
岩泉の言葉を思い出す。

私にしか、できないこと。

がそこにいてくれるっていうのが、嬉しいんだよ」

堪えきれなくなった涙が、溢れた。


「…っ、私」
「もー」

徹は起き上がって、指で私の涙を拭う。
そしてそのまま、私をぎゅっと抱きしめる。

「こういうときに、寄りかかれる存在っていうのがね」
「…うん」
「すごく、ありがたいんだよ」

徹は私の頭を撫でる。
これじゃ、私のほうが慰められている。

「…ごめんね」
「だから、謝らなくていいのに」
「でも」
「んー、じゃあね」

徹はまた、へらっと笑う。

「また、俺が落ち込んだときに膝枕してね」

その笑顔のまま「それで許してあげる」なんて言ってくる。

「そのぐらい」
「うん」
「いつでも、してあげるよ」
「やった」

徹はガッツポーズをすると、また私の膝に頭を乗せる。
こんなことで、本当にいいんだろうか。
わからないけど、徹の顔が幸せそうで。

岩泉の言った言葉の、「私にしかできないこと」というのが、
それがこれなら、私はいくらでもするよ。











私にできること
13.05.16

唐突に及川夢
ジャンプ読んだらいろいろ考えてしまって…





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