10月30日。今日は恋人の誕生日だ。
ただ、残念ながら今日は夜おそーくまで部活があったわけで…。

「辰也、お疲れ」
「ああ、ありがと」
「…大丈夫?」
「…強がりたいところだけど、ちょっと大丈夫じゃないな」

普段は部活の後自主練習をする辰也だけど、今日は本当にお疲れらしくそのまま上がった。
この間あったWC予選、うちの部は無事通過はしたものの、試合内容が思うようなものではなく、監督がこここぞとばかりにしごいてきたのだ。
おかげで部活終了後、体育館は死屍累累。
辰也も珍しく死にそうな顔で体育館を後にしていた。
今一緒に帰っている彼の横顔も正直生気がない。

「お祝いは、週末ゆっくりしようか」

誕生日だから、部活が終わった後一緒にお祝いしようという話をしていた。
だけど、こんなに疲れた辰也を目の前にしてそんなことは言えない。
少しでも早く休ませてあげたい。

「…ん、そうだね。も疲れたろ」
「私は別に…辰也、早く休みたいでしょ?」

立ち止まって、横にいる辰也を見据える。
私もいつもより疲れてはいるけど、あくまでマネージャーだ。
選手より疲れてはいない。

「あ、でも辰也の誕生日なんだから、辰也の言うとおりにするよ」

辰也が当日の今日祝ってほしいというのなら、それでもいい。
当人は辰也なんだから、辰也の思うようにしてあげたい。

「……」

辰也は私から視線を外す。
少しの沈黙の後、まっすぐ私を見て口を開いた。

「…やっぱり今日は、ごめん。疲れてるから、今度にしよう」
「うん。わかった」
「ごめんね。、楽しみにしてたろ」
「もう!私のことはいいの!」

確かに辰也のお祝いをするのを楽しみにしていたけど、一番大事なのは辰也の体調だ。
お祝いはいつだってできる。
当日の今日は、おめでとうを言って、こうやって一緒に帰るだけでも十分だ。

「帰ろう?早く休んで、疲れ取ってね」
「……」
「辰也?」

辰也はじっと私を見つめる。
暗い中で見つめられて、少しドキッとする。

「…わがまま、言っていい?」
「うん」

辰也の言うわがままは、ニコニコしながら言ってくるときはとんでもないことが大半だ。
でも、こういう優しい口調のときはわがままとはとても言えないようなことを求めてくる。

「ぎゅって、抱きしめて」

ほら、やっぱり。
そんなことは、わがままとは言わないのに。

「うん」

頷くと同時に、辰也にぎゅっと抱きつく。
強く抱きしめたら痛いかなと思ったけど、きっと辰也は強いほうが好きだろうと思って力いっぱい抱きしめた。

「…うん。元気出た」
「本当?」
「本当」

辰也は自分の腕の中にいる私にキスをする。
一旦唇を離して、今度は私からキスをした。

、もう一個」
「ん?」
が欲しい」

辰也の言葉に頬を赤く染めてしまう。

「…疲れてるんじゃないの?」
「そっちじゃない」

辰也は首を横に振る。
そっちじゃない、って。
「そっち」を想像した私が恥ずかしい人じゃないか。

が、欲しいんだ」

辰也は私のおでこと自分のおでこを合わせる。
近くなった辰也の目を見つめると、答えが見えた気がした。

「辰也、あのね」

顔を近付けたまま、囁くような声で呟いた。

「誕生日おめでとう。大好きだよ」

そう言うと、辰也は満足気な笑顔でぎゅっと抱きしめてきた。

「ありがとう」
「ふふ」

そのまま、少しの間だけそこで抱きしめあった。
私の心は、誕生日じゃなくても、いつだって辰也にあげるよ。









私をあげる
14.10.30

ハッピーバースデー!




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