辰也が日本に帰ってきているらしい。
しかも今は東京まで来ているらしい。
これは会わねばならないだろう!
「私も会いたかったなあ」
「まだ東京いるみたいだぜ」
昨日辰也に会ったと言う大我にそう言われる。
辰也が日本に帰って来るのは知っていたけど、今東京にいるなんて。
「どうせなら秋田じゃなく東京に帰ってきてほしかったなあ…」
「しょうがねえだろ」
「わかってるけど」
私と辰也と大我はアメリカに住んでいた。
年の近い日本人とは珍しく、私たちはすぐ仲良くなった。
そして、私が同い年の辰也を好きになるのにそんなに時間はかからなかった。
このまま辰也と大我と3人でずっといられると思ったけど、大我が日本に帰り、私も日本に帰ることになってしまった。
だけど辰也とはまめに連絡を取っていて、この間日本に帰ることになったと連絡が。
残念ながら秋田にいるらしいけど、日本とアメリカという距離よりましだ。
会いに行ってみようか。そう思っていた矢先に辰也のほうが東京に来ていると大我から知らされた。
「あれ、メール…辰也からだ」
「タツヤ?」
「うん」
「…お前とタツヤは、結構連絡取ってんだな」
「うん、そりゃあね」
「…オレ日本に帰ってきてることも知らなかったし」
「…ケンカしたままだからでしょ」
大我をこつんと小突いた。
結局昨日もちゃんと仲直りできなかったらしい。
本当に、この人達は全く。
「で、メールなんだって?」
「えっと…わ!」
メールを見て飛び上がる。
内容は、「今東京に来てるんだけど会えない?」というものだった。
「会う!会いに行ってくる!やった!!」
「お、落ち着けよ」
「落ち着けるわけないじゃん!すごい久しぶりだもん!」
こちらから誘いのメールを送ろうと思っていたら、まさかのあちらからのメール。
これは喜ばずにはいられない。
『会いたい!』
『あまり長く東京にいられないんだ。急ぎだけどこれから大丈夫?』
『もちろん!』
そう返信して、待ち合わせ場所と時間を決める。
「じゃ、私行ってくる!」
「え、もうかよ!?」
「一回家帰って着替えたりしないと!」
そう言って走って家まで帰る。
久しぶりに辰也に会うんだ。変な格好では会えない。
*
「辰也!」
「、ごめん、遅かったかな?」
「ううん!」
待ち合わせ場所の駅に着いて、辰也に会う。
辰也は私に一歩近付くと、顔を近付ける。
「わ、わ!ストップ!」
辰也は一瞬目を丸くした後、納得したように笑って離れていった。
「相変わらずだね」
「だ、だって」
今、辰也はキスをしようとしたんだろう。
まあ、アレックスではないから唇じゃないだろうけど。
アメリカでは当たり前の、頬にするあいさつのキス。
だけど私はそれがどうにも苦手だった。
「どうして苦手なの?」
「な、なんとなく」
長い期間アメリカにいた辰也と違って、私がアメリカにいた期間は中学時代の三年間だけ。
日本人気質が色濃く残っている私には、あいさつのキスも少し抵抗がある。
それが好きな相手なら、なおさら意識してしまう。
「アメリカにいたときの知り合いに会うとつい、ね」
「……」
辰也はアメリカにいた期間が長いから、そういうことに抵抗がない、というか慣れているんだろうけど。
…なんだか、私ばっかり意識してるみたいで、寂しい。
「…で、どこか行きたいとこある?」
「いや、それは昨日少し見て回ったから」
「そうなの?」
「とはゆっくり話がしたいな」
微笑みながらそう言われて、胸がきゅんとなる。
私も話したいこと、聞きたいことがたくさんある。
*
「辰也は今秋田の学校に通ってるんだよね?」
「うん。陽泉ってとこ」
「綺麗な名前」
ゆっくり話をするなら、ということで喫茶店に来た。
お互いの近況報告。
メールや電話で話してはいたけど、会って話すのはやっぱり違う。
「今いるチームに面白い奴がいてさ。アツシっていうんだけど」
「あ、なんかそれ大我から聞いた」
「…へえ」
辰也は少し表情を曇らせる。
「?」
「タイガと同じ学校なんだよね」
「うん、大我が誠凛受験したって聞いたときはびっくりしたなあ」
「…そっか。いいな」
「いいな、って」
「も陽泉に来ればよかったのに」
そう言われて心臓が跳ねる。
それは、どういう意味で。
「…あ、もうこんな時間だ」
「え、あ…」
辰也にそう言われて時計を見ると、もういい時間。
残念だけど、お別れだ。
「また会おうね」
「うん」
駅に着いて、笑顔を作ってお別れを言う。
寂しい、けど、仕方ない。
「…」
「?」
「お別れのキスも、ダメ?」
辰也にそう言われ反射的に顔が赤くなる。
「だ、ダメ」
「どうしても?」
「ダメ!」
何度言われようと、それは嫌だ。
どうしても、嫌。
「…じゃあ」
辰也は少し考える仕草をした後、真剣な顔で言う。
「恋人同士のキスも、ダメ?」
「え…」
突然の言葉に、一瞬固まる。
キス、恋人同士の、キス。
「」
「…っ」
辰也は私の返事を聞く前に、私にキスをする。
挨拶じゃない、頬にするものじゃない、唇と唇のキス。
「た、辰也」
「…このキスが、ずっとしたかった」
辰也はもう一度キスをする。
心臓がドキドキする。止まらない。
「…私も」
「うん」
「私も、このキスが、したかったよ」
顔を赤くしたままそう言うと、辰也は微笑んだ。
「もっと早くに言えばよかったな」
「…うん」
「もう行かなくちゃいけない」
ああ、そうか。
今の一瞬の出来事に浮かれていたけど、辰也は秋田に帰るんだ。
「…秋田は遠いね」
「アメリカより近いよ。それに」
「それに?」
「すぐに迎えに行くよ」
そう言って辰也はまたキスをする。
そんな日が、早く、来ればいいのに。
xxx
13.08.08
蝋さんリクエストのアメリカ組女の子の話でした〜
リクエストありがとうございました!
感想もらえるとやる気出ます!
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