今日の部活も無事終了。
氷室が着替えるのを待って一緒に帰るのが付き合い始めてからの習慣だ。
今日も外で待っていよう、そう思って部室を出ようとしたとき、本棚から何冊か本が落ちているのが見えた。

「もう」

落ちていたのは月バスのバックナンバーと部員名簿。
そういえば、ちゃんと部員名簿って見たことないや。
そう思ってページをめくると、とんでもないことに気付いた。

「え」

今日は10月30日。
部員名簿に載ってた、氷室の誕生日も10月30日。
今日は10月30日。
つまり、今日が私の恋人の誕生日ということだ。

「う、嘘でしょ…」

そうだ、思い返してみれば氷室の誕生日っていつ?みたいな話したことない。
アドレスも誕生日関係ない感じのやつだったし、気付けるわけもない。

やってしまった。まだ付き合って間もないとはいえ、恋人の誕生日を祝い忘れるとは。
当然の如く、プレゼントなんて用意できていない。
それどころか、今日最初に会ったときも普通に「おはよー眠いねー」なんて挨拶をしただけ。

どうしよう、どうしよう。
必死に思考を巡らせていると、部室のドアが開いた。
氷室じゃありませんように、という願いは届かなかったようだ。

、何してるの?」
「……土下座の準備」
「は?」

私の言葉に目を丸くする氷室。
いや、だってこれは土下座でもしなきゃ許されないだろう。

「あの、本当、申し訳ありませんでした…」
、どうしたの?」
「…誕生日、おめでとうございます…」

頭を下げながらそう言うと、氷室は「ああ」と呟いた。

「今部員名簿見て知ったの。本当ごめんなさい…」
「いや、オレもに教えてなかったから」

顔上げて?と言われ、恐る恐る氷室の顔を見る。
怒ってはいなそうだけど、寂しそうな顔をしている。
当然だ。私が氷室の立場でも、悲しくなるはず。

「ごめんね」
「オレも言えばよかったね」
「あの、だからプレゼントも何もないの。ごめんね」
「別にいいよ」
「あ、そうだ。帰りに何か買っていく?」
「…そうだね、帰りに欲しいな、プレゼント」
「なに?」

欲しいものがあるなら、それを言ってくれた方がいい。
なんだろう、と思い聞いてみると、氷室は頬を撫でる。

「氷室、あの、くすぐったいんだけど」
が欲しいな」
「え」
「だから、がいいな」

が欲しい』っていうのは、つまり、その、えっと。

「そ、それはどういう意味で…」
「だからつまりセ」
「わー!やっぱり言わなくていい!!」

え、ちょっと、ちょっと待って!

「いや、その、それは早くない?」
「そんなことないよ」
「だって、そんないきなりだし」
に祝ってもらえなくて寂しかったな」
「う」
「一番に祝ってほしかったんだけど」
「だから、それは謝るから」

氷室の指先はいつの間にか私の耳をいじっている。
くすぐったいような、こそばゆいような、変な感覚が。

「ご、ごめんってば」
「許してあげない」

そう言うと、氷室は私にキスをする。
多分、もう、何を言っても無駄だろう。

「寂しかったよ」
「ご、ごめんなさい…」
「この寂しさを埋めてもらうまで許さないよ」
「は、はい…」

さっきまでの寂しそうな表情はどこへやら。
楽しそうに笑う氷室に手を引かれて、氷室の部屋まで一緒に帰った。

「いい誕生日になりそうだ」











許してあげない
12.10.30

ハッピーバースデー!!
なんでも自分のいいように転がす氷室です
何度も言ってますが目的のために手段を選ばない氷室がもっと見たいです…







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