「あ、あの、氷室」
「なに?」
「その、ちょっと、どいてほしいかな、なんて…」
「ダメだよ」

私と氷室以外誰もいない教室。
私は教室の後ろの壁に押しつけられている。
一体何がどうなってこんなことに。

ことの始まりは十数分前のこと。





「…す、す、す…」
「………」
「好きです!付き合ってください!」
「『す』が多すぎる」
「だって〜……」

放課後の教室、私は友人に練習を付き合ってもらっている。
そう、告白の練習。

「確かに『す』多いけど伝わらない?どうにかならない?」
「私相手にそれじゃあ氷室くん相手だとどうなるのよ」
「………そうですね」

告白したい相手は氷室。
うまくいくかなんてわからない。でも決めた。当たって砕けると!いや砕けたくはないけど!

「どーいうふうに言うとOKしてくれるのかな…」
「女の子から告白した時の成功率って高いらしいよ」
「氷室に告白して撃沈した女の子の話をよく聞くんですが」
「…じゃあ知らん」
「冷たい!」
「私は氷室くんじゃないんだからどういうのが好きかなんてわかんないわよ。まあ、ストレートが一番なんじゃない?」
「…だよね。じゃあ、もう一回」

そう言って友人を正面から見る。
…相手は氷室…目の前にいるのは氷室……。

「う、うわあ!やっぱ無理!」
「頑張りなさいよ!ほら、いくらでも付き合ってあげるから!」

励ましてくれる友人。
…そうだ、こんな優しい友達のためにも頑張らないと!
よし、友達を氷室と思って!

「氷室!」
「呼んだ?」

友達に向かってそう言ったはずなのに、後ろから何故か声が聞こえた。
氷室の声だ。
………え……。

「ひ、氷室!?」
「うん。何か用だった?」

そこには部活動中のはずの氷室が。
どういうこと。どういうこと…!

がね、氷室くんに用あるんだって」
「そうなの?」
「ちょ、ちょっと!」

友人の言葉に慌てる。
い、いきなり何を!

「いいじゃない、このままのテンションで言っちゃいなさいよ」

小声でそう言われ、まあ、確かに…と納得する。
そりゃそうだ。だって告白しようと決めてたんだし。
「私先に帰ってるからー」なんて言って友人はそそくさと教室を出る。

「で、どうしたの?」
「あ、えっと…」

そう、告白する。ストレートに。

「あの、ね」
「うん」

…ダメだ、普段は普通に話せるのに告白しようとするとうまく言葉が出てこない。

「えっと、その…ひ、氷室どうしたの?部活は?」
「今日はミーティングだけだから」
「あ、そうなんだ…」
「…、顔赤いけど大丈夫?熱でもあるの?」
「い、いや、具合は全然平気なんだけど」

寧ろ超健康だ。元気が有り余ってるくらい。
そう言うと、氷室は表情を少しきつくした。

「それなのに赤くなってるの?」
「え。あ」

健康体なのに赤くなってるとか、それって。
う、うわあああ!私のバカ!

「い、いや、やっぱりちょっと具合が」

「は、はい」
「そんなことを言われると、期待しちゃうよ」
「き、期待って」

氷室は一歩私に近づく。
私は思わず立ち上がって一歩後ずさりをする。
だから氷室はもう一歩私に近づいて、私はまた一歩下がって。


「あの、えっと」

後ろの席で話していたものだから、あっという間に壁に付いてしまう。
つまり、もう逃げられない。


そして冒頭のような状態に。
私は頭が沸騰しそうだ。


「ひ、氷室、ちょっと待」
「黙って」

真剣な声でそう言われれば黙るしかない。
左手は腰のあたりに回されて、右手は私の頬に。
私の顔はきっと完全に赤くなっている。

「好きだよ」
「……っ」

私だってバカじゃない。
ここまでされたら、もしかしたらそうかな、なんて。

そんなふうに思ったけど、やっぱり聞くとまた違う。

「すごく好きだよ、世界で一番」
「ひ、氷室」
「好きでどうしようもないんだ」

氷室は私を抱きしめる手に力を込める。
でも、顔は私を見つめたまま。

、好きだよ」
「…ひ、氷室、あの」
「さっき、赤くなってたのはどうして?」

顔を近付けたまま氷室は聞いてくる。
そうだ、そう、私も言わなくちゃ。

「わ、私もね」
「うん」
「…えっと」
「うん」
「…氷室に告白しようと思って、そしたら、緊張しちゃって」

多分、私の顔はさっきよりずっと赤い。
氷室は、赤くなった私の頬にキスをする。

「ひ、氷室」
「好きだよ。ずっと、どうやって言おうか考えてた」
「どうやって?」
「うん。どうやって言えばがOKしてくれるかなって」

その言葉に胸の奥が熱くなる。
私と一緒だ。

「私も、そう考えてたよ。同じこと思ってたよ」

そう言うと、氷室は私の髪を優しく撫でる。

も?」
「う、うん」
「じゃあ、のも聞きたい?」

?私のも、って。

が考えてくれた、告白の言葉」

氷室は優しく微笑む。

「え、っと、すっごく普通なんですけど…」
「聞きたいよ」

私は氷室に告白されて嬉しくて。
だから、氷室もそう思ってくれているんだろう。

「……あの、ね」
「うん」

さっきまでの友人との練習を思い出す。
当たり前だけど、やっぱりさっきと全然違う。

「す、」
「……」
「好き、です。付き合ってください」

赤くなりながら必死にそう言うと、氷室は私にキスをする。

「…っ」
「オレもだよ。大好きだ」

氷室は私を優しく抱きしめる。

「ずっと、同じこと考えてたんだね」












ずっと
12.12.11

リクエストの氷室に情熱的な告白をされる話でした
しずくさんありがとうございました!


情熱的ってなんだろうと悶々と考えた結果「ストレートが一番情熱的」という結論に










感想もらえるとやる気出ます!