大学4年、冬。
就職も決まり、卒論も提出して、すっきりした気持ちで迎えた元旦。
私は蔵と近所の神社に初詣に来ている。

「何お願いしたん?」
「ん?今年一年健康で幸せに過ごせますようにって」

毎年願い事は変わらない。
いつもそうお参りしている。

「今年から社会人だし…体調は気をつけなくちゃ」
「せやな。そこはが先輩やなあ」

蔵は6年制の薬学部に通っているので、就職するのはあと2年先だ。

「…ちょっとだけ待たせてまうな」
「?なにを?」

蔵はちょっと寂しい口調で言う。
思い当たることがないので聞き返すと、苦笑いされた。

「俺が卒業したらもうすぐに25やん」
「うん」
「25ならもう結婚しとるやつらもおるやろ」
「うん…うん!?」

『結婚』というワードに過剰に反応してしまう。
待たせてしまうって、それは。

「私、いつまでも待つよ!」

大きな声で叫ぶと、蔵は目をまん丸くした。
もともと蔵以外と結婚するつもりなんてない。
いつまでだって、私は待つよ。

「ありがとうな」
「べ、別にお礼言われるようなことじゃ…」


蔵はぎゅっと私の手を握って、私のほうを真っ直ぐ見つめる。

「昔、大きくなったら結婚しようって言うてたけど」
「うん」
「もうすぐなんやな」

幼稚園の頃、たびたび言っていた「大きくなったら結婚しよう」という言葉。
あの言葉が、現実になる日が近づいてきている。

「うん!」