高校二年生の秋。
同じ高校に進学した私と蔵は、今日も一緒に帰っていた。

「部活大変?」
「まあなあ」

三年生が引退した今、蔵は中学の時と同じく部長をやっている。
そんな事実も手伝って相変わらずの人気ぶりだ。

「好きでやってることやし、明日はオフやし」
「あ、そうなんや」
「どっか行くか?」

蔵は部活が忙しいから、私たちはあまりどこかに出かけたりしていない。
せっかくの休みということで気を遣ってくれているんだろう。

「せやったら蔵の家でええよ」

一緒にいたいのはやまやまだけど、あまりない休みに外に連れ出すのもなんだか悪い気がする。
蔵の家なら蔵もそんなに疲れないかなと思いそう申し出たけど、蔵はなぜか難色を示している。

「?なんかまずいん?」
「いや…明日うち誰もおらへんねん」

つまり、明日蔵の家に行ったら私と蔵と二人きりということか。

昔、私たちが留守番をできるようになったころはお互いの家で二人きりなんてことはよくあった。
だけど、私たちが付き合い始めてからは、蔵がそういうことを避けるようになった。
私や蔵の部屋で二人きり、なんてことは幾度となくあったけど、家の中にお母さんだったり姉妹だったり、誰かがいた。

「…別にええよ」

そう答えると、蔵は目をまん丸くして私を見る。

「…意味わかっとる?」
「わかっとるよ」

私もそこまでバカじゃない。
それが何を意味するのか、わかってる。
握った手の力をぎゅっと強めた。

「…ええよ」





「…お邪魔しまーす」
「どーぞ」

次の日。
私が蔵の家のインターホンを鳴らすと、蔵はすぐに出てきた。

「とりあえず、お茶」
「ありがと」

蔵の部屋の座椅子に座る。
受け取ったマグカップを思わず落としそうになる。

「わっ」
「あぶな」

一呼吸して、マグカップを机に置いた。
今持ってたら落としそうだ。

「…緊張しとるん?」
「そ、そりゃまあ…」

この状況で緊張しない女子がいたら会ってみたいぐらいだ。
心臓がバクバクいている。

、あのな」
「う、うん」
「嫌ならホンマにええんやで」

蔵はぽんと私の頭に手を乗せる。
私に気を遣ってくれるのはとても嬉しい。
だけど、

「…私、軽い気持ちでええって言ったんやないよ」

ぎゅっと恥ずかしい気持ちを抑えて、蔵に話す。

「まあ、その、ちょっと緊張しとるけど…、蔵のこと好きやし」

ちょっとどころかものすごく緊張しているけど。
でも、大丈夫。
だって私は、蔵のことが大好きだから。

「…っ」

蔵は私にキスをする。
心臓が跳ねる。

「…俺も、好きやで」

ゆっくり目を瞑る。
ドキドキが、最高潮に達する。