「楽しかったね」 「うん!」 辰也とデートの帰り道。 手をつないで、今日の思い出を振り返る。 「コスモス、いい時期だったね」 「うん。のお弁当もおいしかった」 「ふふ、ありがと」 今日は少し遠出して大きな公園にコスモスを見に行ってきた。 ちょうどいい時期で、とてもきれいだった。 「?辰也携帯鳴ってない?」 「…あ、監督からだ。ちょっとごめん」 「うん」 辰也は普段私といるとき電話しないけど、さすがに監督からは別だ。 道路の端っこに寄って電話し始める。 「あ」 止まった場所は宝石店の前。 綺麗なアクセサリーがショーウィンドウに並んでいる。 「……」 辰也が電話をしている間、暇なのでそのアクセサリーを見ていた。 どれも素敵なものばかり。ただその代わり値段も張る。 バイトもしていない高校生の身分では手も足も出ない。 「あ…」 別世界のことのように眺めていると、一つの指輪に目を奪われる。 シンプルで、上品で、それでいて可愛らしいデザイン。 校則で禁止されているし、もともとアクセサリーの類にそれほど興味があるわけではないのだけれど、この指輪からは目が離せない。 「、ごめん待たせて」 「!」 じっとその指輪を見つめていたら、電話を終えた辰也が話しかけてくる。 「どうしたの?」 「あ…っ、なんでもない」 そう言って辰也の手を取った。 「帰ろう?遅くなっちゃう」 …こういうの、大人だったら誕生日とかのプレゼントに強請ったりするものなんだろうか。 でも、しょうがない。 まだ高校生だし、そういうのは無理だろう。 このままずっと一緒にいれば、いつかプレゼントされたり、交換したり、そんな日がきっと来るだろう。 その日を楽しみにしておけばいい。 * この間のデートから一週間。 今日は私と辰也が付き合い始めて一年の記念日だ。 小さなケーキを買って、辰也の部屋でお祝いだ。 「もう一年経つんだね」 「ね、早いね」 この一年、長かったような、短かったような。 とても幸せで温かい一年だった。 そして、これからもそんな日々が続いていく。 「あのね、プレゼントがあるの」 そう言って辰也に小さな包みを渡す。 「ありがとう。…あ、可愛い」 プレゼントはバスケットボールのストラップだ。 辰也はバスケが大好きだし、ぴったりだと思って。 「ありがとう。携帯に付けるね」 「うん」 「オレからもあるんだ」 辰也はそう言って小さな箱を私に渡す。 なんだか、上品そうな箱だ。 「わ、ありがとう」 「開けてみて」 「うん」 ドキドキしながら箱を開ける。 そこに入っていたのは、 「!」 思わず辰也を見上げる。 箱に入っていたのは、指輪だ。 「おもちゃの安物だけどね」 「辰也…」 「この間、指輪見てただろ」 「え…」 「先週のデートの帰り」 「き、気付いてたの?」 「はわかりやすいからね」 そう言われて頬が赤くなる。 「…今はまだ、本物をプレゼントすることはできないけど」 辰也は箱から指輪を取ると、私の指にはめた。 左手の薬指だ。 「いつか、本物をあげるから、それまで待っていてほしい」 辰也の言葉に、涙が溢れる。 そんなの、いつまでも、いつまでだって、待つよ。 「ありがとう…」 泣いてしまって、まともに返事ができない。 だから、ぎゅっと辰也に抱き付いた。 銀色の約束 後編→ 14.09.14 |