『じゃあ、来週の土曜日、18時半で』
「うん、わかった」

辰也と来週の約束をして電話を切る。
来週の土曜日は、私たちが付き合い始めた記念日だ。
早いもので、もう付き合い始めて8年になる。
私も辰也も、もう社会人になった。
辰也が素敵なレストランを予約してくれたから、そこで食事をする予定だ。
昔は小さなケーキを買っていたのに、私も辰也も大人になったものだ。

「土曜日か…」

手帳に赤くマークを付ける。
ちゃんとした服を着て、アクセサリーもつけていかなくちゃ。
そう思ってアクセサリーボックスを開ける。

「あ…」

箱の隅に転がっている指輪を手に取る。
懐かしいものだ。
恋人になって一周年の日に、辰也がくれた指輪だ。
しばらく身に着けていたけど、壊れてしまった。
それでも惜しくて、こうやって未だに取っておいている。

「懐かしいな」

指輪を手に取って呟く。
あれから7年が経った。
時が経っても、この指輪は宝物だ。

高校を卒業して、校則に縛られることがなくなって、自分でアクセサリーを買うことも増えた。
ピアスは辰也があまりいい顔をしないから開けていないけど、ネックレスとか、イヤリングとか、この箱の中にたくさん揃っている。
だけど、指輪はこの壊れた指輪ひとつだけ。
他の物を、買いたいと思えないのだ。
おかげで、私の指は何年も寂しいままだ。





「おいしい!」

土曜日。辰也と二人、レストランで食事をしている。
さすが評判のお店だけあって、とてもおいしい。

「素敵なお店だね」
「ああ。気に入ってくれてよかった」

辰也が優しく微笑んでそう言うから、私も笑う。
幸せな時間だ。

「景色もきれいだし」

窓から夜景が一望できる。
ドラマに出てくるようなレストランに、自分がいる。
なんだかそわそわしてしまう。

「なんか、ドキドキするね」
「はは。あんまり緊張しないで」
「辰也は様になるけどさ」

辰也はこういう場所が様になるというか、似合うというか。
一方私は浮いてる気がして仕方ない。

は綺麗だよ」

辰也は真っ直ぐ私を見て、そう言う。

「あ、ありがとう…」

辰也はそういうことをいつもさらっと言うから、長い付き合いで私も多少慣れた。
そのはずなのに、なぜか今はやたらと心臓が高鳴る。
この特別なシチュエーションのせいだろうか。



辰也は真剣な表情で私を見つめる。
ドキッとして、私は自分の手を膝の上に置いた。

「な、なに?」

辰也のこんな表情はあまり見たことがない。
緊張で、胸が締め付けられる。

少しの沈黙の後、辰也が綺麗な小箱を私に差し出す。
同時に、口を開く。

「オレと結婚してほしい」

辰也のまっすぐな瞳が私を射抜く。
辰也の手の中では、綺麗な指輪が光っている。
辰也の言葉と、差し出された指輪。
あまりの衝撃に、次の言葉が紡げない。

結婚。
私と、辰也が。

「…っ」

口を開こうとすると、涙がポロポロと零れた。
辰也はそんな私を、優しい瞳で見つめている。

「…はい…」

震える声で、ようやく答えた。
私の答えはそれ以外ない。
テーブルの向こうで、辰也が優しく微笑んでいる。

「ありがとう」

辰也はそう言うと、先ほどの指輪を私の指にはめた。
左手の薬指だ。
涙で歪んだ視界で指輪を見つめると、あることに気付く。

「辰也、これ…」
「さすがに同じものはなかったけど」

辰也は苦笑する。
私の指で光っている指輪は、7年前、私がアクセサリーショップで目を奪われた指輪だ。

「問い合わせてみたら少しデザインは変わってしまったけど、ほとんど変わらないものがありますって言われて。一緒のものがあればよかったんだけど」
「…覚えてたの?7年も前なのに」
「覚えているよ。のことなら、なんでも」

辰也がそう言うから私の目からまた涙がこぼれた。

「必ず、幸せにするよ」

辰也は私の手を握る。
温かい。

「…これ以上?」
「もちろん」
「だって、私、今こんなに幸せなのに」

私は今こんなに、これ以上ないぐらい幸せなのに。
これ以上幸せになったら、死んでしまうんじゃないかと思うほどなのに。

「今よりもっと、幸せにするよ。だから、これからずっと、一緒に生きていこう」

辰也の言葉に、私はもう一度頷いた。










銀色の約束
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14.09.14


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タイトル配布元→capriccio