※プロポーズ企画銀色の約束とリンクしてます



恋人の辰也にプロポーズされて、お互いの両親にも挨拶をした。
会社にも結婚する旨を伝えて、今は結婚式の準備に追われている。

そんな折、会社の飲み会が行わることになった。
準備で忙しい…とはいえ社会人。断ることはできず一次会だけでも参加することになったのだった。



さんの彼氏ってどんな人ー?」
「いつから付き合ってるのー?」

当然というか、予想通りというか、女性の先輩方から質問ラッシュだ。
真面目に受け取りつつ、ときどきかわしつつ、必死に質問に答えていく。

「婚約指輪ってもらった?」

隣に座る先輩にそう聞かれる。
婚約指輪…というと、プロポーズされたときにもらったこの指輪だろう。

「はい」
「えっ、それ?」

先輩は私の左手の薬指を見て、目を丸くする。
そんなに変なデザインだろうか。

「えー、それあそこのブランドでしょ?せっかくの婚約指輪なんだからもっと高いのもらえばよかったのに」
「え…っ」
「ティファニーとかさあ、もっといいとこの…」
「そんなこと!」

ない、そう続けようとすると席の向こうで部長が「そろそろお開きにするぞー」と周りに呼び掛けた。
私の言葉の続きは言えずにお開きとなってしまった。


さん、二次会行かないのー?」
「はい、すみません」

必死に笑顔を作りながら、二次会の誘いを断る。
自分は割と穏やかなほうだと思っていたけど、今日ばかりは腸が煮えくり返りそうだ。
ぎゅっと携帯を握りしめて、辰也に電話を掛けた。

『もしもし、
「辰也」

辰也の声を聴いて、ふっと心が軽くなるのを感じる。
やっぱり私には辰也だと実感する。

『飲み会終わった?』
「うん」
『じゃあ駅まで迎えに行くよ』
「ありがとう」

辰也は私の帰りが遅くなるといつもそう言ってくれる。
申し訳ないと思って断ると、辰也は電話越しでもわかるぐらいにしゅんと落ち込んでしまうのだ。
そして嫌な顔一つせずに迎えに来てくれる。
私の恋人…婚約者は、こんなにも優しい人だ。






、お待たせ」

駅に着くと辰也が車で迎えに来てくれる。
お礼を言いながら助手席に座った。

「大丈夫?」
「うん。今日はあんまり飲んでないから」

結婚指輪のパンフレットを広げてみる。
結婚式自体も重要だけど、結婚してからずっとつけることになる指輪も大切だ。
この間辰也と何件かお店を回って、候補を絞っておいた。

「辰也はシンプルなのがいいんでしょ?」
「まあ…でもが好きなのでいいよ」
「それじゃだめなの!」

辰也はいつもそういうけど、二人でつけるものなんだから私だけの趣味じゃだめだ。
きっと辰也を睨むと、辰也は優しく笑った。

「本当にオレはデザインとかには拘りないから」
「でも」
「じゃあ結婚式はいろいろ注文付けるよ。それでいいだろ?」

辰也は笑顔を崩さずにそう言う。
そう言われれば私は頷くしかない。
だけど、この調子だと結婚式も私のわがまま全部聞いてしまいそうだ。

「…もう。あ、デザインも重要だけどさ、刻印もちゃんと考えたいよね」
「そうだね…シンプルだけどイニシャルとか、あと結婚記念日とか」
「うん。英語とか入れる人もいるんだって。どんなのがいいかなあ」
「うーん、難しいな…」

辰也は真剣に考えてくれる。
辰也は本当に優しい。
いつだって私の気持ちを最優先に考えてくれる。
今私がつけているこの指輪をプレゼントしてくれたときだってきっとそうだ。

指輪にそっとふれる。
ぐるぐると、黒い感情が頭を巡る。

?」
「え…っ」
「着いたよ」

外を見ると車は駐車場に停まっている。
いつの間にか家に着いたようだ。

「やっぱり疲れてる?」
「ん、大丈夫」

首を横に振って車から出る。
鞄から鍵を出して、辰也と一緒に家に入った。

結婚式も入籍もまだだけど、私たちはすでに一緒に住み始めている。
お互い働きながら式の準備をするのは大変だからと一緒に住んでしまったほうがいいと周りに勧められたからだ。
実際一緒に住んでみて正解だったと思う。
式の準備は本当に忙しく、一緒に家にいると移動の手間もないし、何より一緒にいられる時間が多いのは幸せだ。

「…ふう」

部屋着に着替えて、水を一杯飲む。
あまり飲んでいないとはいえお酒はそこまで強くない。
ふう、と息を吐くと辰也が心配そうな顔をして隣に座ってきた。

、早く寝たら?疲れてる顔してる」
「ん…大丈夫」
「でも…」

辰也は目を伏せた。
そして少しの沈黙の後、私の手を取る。

「じゃあ、何かあった?」

じっと見つめられて、今度は私が目を伏せた。
辰也にはなんでもお見通しだ。
私の嘘も、強がりも。

「…あのね」

辰也に言うべきことではないと思う。
だけど辰也は私の嘘なんてすぐに見抜いてしまう。

「…今日、婚約指輪どんなのもらったのー、って聞かれてね」
「うん」
「答えたら、もっと高いのもらえばよかったのにって。そんなふうに言われて、すごく嫌で、でも先輩だしあんまり言い返せなくて、悔しくて」

そう言うと、辰也は優しく私を抱きしめてくれる。
私もぎゅっと辰也を抱きしめ返した。

「この指輪、私すごく嬉しかったの。10年近く前のこと覚えててくれたことも、大事なときにこの指輪を選んでくれたことも。それなのに、全部バカにされたみたいで」

辰也の優しさも、私たちの思い出も、全部全部軽く言われたようで悔しい。
私はこんなにも嬉しかったのに。幸せだったのに。
すごくすごく、悔しい。



辰也は慰めるように私の頭を撫でる。
黒い感情が、段々と溶けていくのを感じる。

「そんなに怒ってくれて、ありがとう」
「辰也」
「不謹慎かもしれないけど、がそんなに怒ってくれて嬉しいよ。オレとの思い出をすごく大切に思ってくれてて」
「…でも」
「いいんだよ、オレの思いも、オレとの思い出、オレとだけが知っていれば。オレはそれで十分だよ」

辰也の言葉に、涙が出てくる。
辰也はこんなにも優しいのに、私は。


「…ごめんね。辰也にこんなこと話しちゃって」
「いいよ。一人で抱えられるよりずっといい」
「ん…でも、辰也全然気にしてないのに」

辰也は話を聞いても怒るどころか私を慮るばかりだ。
気にする私がとても小さい人間のようだ。

「いや、オレだってからもらったものそう言われたら、きっとすごく、…」
「辰也?」
「…いや、言わないほうがいいな」
「そ、そう?」

辰也は複雑な表情をする。
…聞かないほうがいいんだよね?

「ありがと、辰也」
「?」
「…辰也といるとね、嫌な気持ちとか、そういうの全部なくなっていくの」

ぎゅっと辰也に抱き付いた。
この人といると、負の感情がすべて消えてなくなっていく。

「辰也といると、幸せな気持ちになっていくんだよ」

この人と結婚することにして本当に良かった。
きっとこれから嫌なことがあっても、辰也が隣にいる、その事実だけで、とても幸せになれそうな気がするよ。

「オレもだよ」

辰也は私にキスをする。
ずっとずっと、これからも、こうやって幸せになっていこうね。









You always make me happy
15.06.12







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