※火神のお母さんを死別設定に捏造してます
※プロポーズ企画二人分のとリンクしてます







大我のお母さんが亡くなっていると聞いたのは、付き合い始めてしばらく経ってのことだった。
大我は高校生のころから一人暮らしだったから、お母さんはお父さんと一緒にアメリカにいるのだと思っていた。

母親がすでに他界していると私に告げた時の大我の顔はずいぶんとさっぱりしたもので、悲しみを引きずっている様子はなかった。
お母さんが亡くなったのはずいぶん前のことのようだし、もう吹っ切れているのだと思っていた。


今日は休日。大我と一緒にお墓参りに来た。
「火神家之墓」と掘られた墓石は、マメに手入れがされているとすぐにわかるほど綺麗だった。
ここには大我のご先祖様…お母さんが眠っている。
今日は大我のお母さんに結婚報告をしに来たのだ。

「よしっ、こんなもんだろ」

大我は慣れた手つきでお花を供えお線香をあげる。
目を瞑って手を合わせるので、私もそれに従った。

「…もういいか?」
「うん」

お参りを済ませ、大我と一緒に墓地を後にする。

「親父、来月こっち帰れそうだってさ」
「あ、本当?親に伝えとく」
「おお」

大我のお父さんは今もアメリカにいて、忙しく過ごしているようだ。
だからまだ私も直接会えていない。当然うちの両親と顔合わせもできていない。
来月帰って来られそうということなら、うちの親に予定を空けてもらわなくては。

「式の日程も早く決めねえとな」
「だね」
「アレックスとかも来れっかな…」

大我はぽつりと呟いた。
アレックスさんとは大我と一緒にアメリカ旅行した時に私も一度だけ会ったことがある。
大我が心配するように、身内ではないし簡単には来られないだろう。
でも、彼女が来てくれたら確かにうれしい。

「来れたらいいね」
「おう」

そう言うと大我は嬉しそうに笑った。
以前、大我はアレックスさんを「母親のような姉のような存在」と評していた。

今なら、お母さんのことを聞いてもいいだろうか。

「…お母さんって、どんな人だった?」

恋人同士と言えど、死別した相手の家族のことを聞くのは気が引けた。
大我はあまり家族のことを自分からベラベラしゃべる人ではないので、なおさら。
だけど、今なら聞いてもいいような気がしたのだ。

「オフクロ?んー…フツーの母親だったと思うけど」

大我は天を仰ぎながらそう言った。
大我の瞳は、少し揺れている。

「あー、料理上手かったな」
「料理!?ハードル高いな…」

大我の言葉に、うむむと顎に手を当てて唸る。

「ハードル?なんの話だ?」
「いやあ、だってお母さん料理上手いと奥さんになる私のハードル上がらない?」

オフクロの味と言うものがあるぐらいだし、お母さんが料理上手と聞くと結婚する私はちょっとプレッシャーだ。
心配していると、大我は口を開けて笑った。

「なんだよ、そんなの気にすることじゃねーだろ。比べるもんじゃねーし」
「そう?」
「ああ、料理ってオレだって作れるし」

大我は明るい声で言ってくれる。
そう言ってくれると、少し安心できる。

「お前はただ長生きしてくれりゃーいいよ」

大我は笑いながら、そう言った。
明るい声なのに、ずんと胸に刺さった。

大我のお母さんは、かなり若いうちに亡くなったそうだ。
家族を失ったことのある大我の「長生きしてくれればいい」という言葉は、明るいトーンに反してとても重たいものだった。

「長生きする!」

反射的に、叫ぶようにそう言った。
大我はお母さんのことを引きずっていないのだと思っていた。
だけど、そんなわけない。
幼いころに母親を亡くして、ショックじゃないはずがない。

「私、150年ぐらい生きるね!」
「いやそれ頑張りすぎじゃね!?」

でもそのぐらい頑張りたい。
大我に決して寂しい思いをさせないよう、ずっとずっと、大我の傍で生きていきたい。

「だから大我も頑張ってね!」

ぎゅっと大我の手を握る。
大我と私、ずっと二人で生きていきたい。

「オレも150年かよ!?」
「うん!」
「あー…頑張ってみる」

大我はちょっとめんどくさそうな口調だけど、表情には少し喜びの色が見える。
長生きをしよう。
ずっとずっと、大我の隣にいよう。
そう天に向かって誓った。








君の隣
15.05.04




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