星巡り/エピローグ編
テーブルシティ発、カナズミシティ行きの飛行機の中。深夜に出発したこの便はすでに消灯しており、客席のあちこちからは小さな寝息が聞こえている。
「眠れない?」
隣のダイゴさんが、そっと私の耳元で囁いた。
「ダイゴさんこそ」
「ふふ、まだ旅の興奮が抜けないね」
「はい……」
カナズミまで長旅だ。眠った方がいいのはわかっているけれど、まだ感情が高ぶっており寝つけない。
「旅、終わっちゃいましたね……」
世界の各地を回る旅は、時間としてはとても長かったはずなのに、終わってみればあっという間だった。今は一瞬のようなあの旅の思い出とともに、胸に一抹の寂しさを感じている。
「そうだね……もっと旅をしてみたかったけど」
「でも……そうしたら一生帰れませんもんね」
「ふふ、そうだね」
私もできることならもっと旅をしてみたい。行きたい場所も、やり足りないこともたくさんある。
しかし、そんなことを言ったらきっと永遠に旅を終えることができなくなる。きちんとどこかで区切りを打たなくてはいけない。それが、今日だったのだ。
「ダイゴさん、今回巡った場所に、また一緒に行きましょうね。会いに行きたい人もポケモンも、たくさんいますから」
今回のような旅はもう難しいかもしれない。けれど、これからの長い時間の中でまたジョウトやカントー、カロスなどに行くことはできるだろう。この旅で出会った人、ポケモン……また会いたい子たちがたくさんいるのだ。
「そうだね。また一緒に行こう。これから先、ボクたちにはたくさん時間があるから」
「はい。あ……」
飛行機の外の夜空に、二筋の光が見える。その先に見えたのは、やはりあのポケモンだ。
「ラティアスと……」
「ラティオスだ」
そこには空を駆ける二匹の姿がある。二匹は私たちに気づいているようで、小さく手を振ってくれた。
「ふふ、ホウエンでも会えるかな」
「会えるよ、きっとね」
「はい。あ……見えなくなっちゃった」
ラティオスとラティアスの姿は雲に隠れてしまった。しかし、きっとまた会えるだろう。あの子たちが向かう先は、私たちと同じ場所なのだから。
「そういえば……心のしずくはいつの間にかなくなってしまったね」
「はい……」
心のしずくと思われる小さなあの石。洞窟でラティオスとラティアスに会ったときから、あのしずくはどこかに行ってしまった。洞窟に入るまでは確かに私の手の中にあったはずなのに。
「もしかしたら本当に心のしずくで、ラティオスとラティアスのもとに戻ったのかな」
「ふふ、それならそれが一番ですね」
もしあの石が本物の心のしずくだったのなら、ラティオスとラティアスが持つのが一番いい。もしかしたら、弱ったラティオスとラティアスに力を分けて消えてしまったのかも。ふと、そんな考えが胸をよぎる。
「……ダイゴさん」
「ん?」
「一緒に旅をしてくれて、本当にありがとうございました」
ずっと言いたかった、言えていなかった言葉をようやく私はダイゴさんへ伝えた。
私一人では旅なんてできなかった。ダイゴさんがいたから、私は世界を巡ることができたのだ。
「ボクの方こそありがとう。と一緒だから、いろんな景色を見ることができたよ」
ダイゴさんは私の肩を抱き寄せる。
旅を始める前にダイゴさんが言っていたことを思い出す。「きみといれば、一人では見られない景色を見られる」、ダイゴさんは確かにそう言っていた。
私がダイゴさんに助けられたように、きっと私もダイゴさんの旅を助けることができたのだろう。それを嬉しく思う。
「……ん」
「眠くなってきた?」
「はい……」
話しているうちに、だんだんと眠気が襲ってきた。瞼がふっと落ちてくる。
「おやすみ、。また明日」
「はい、おやすみなさい……」
ダイゴさんの肩に寄りかかりながら、私は眠りに落ちた。
ダイゴさんと一緒の旅は終わってしまった。けれど、また明日から、ダイゴさんと一緒の日々が始まるのだ。